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創作落語『おっぱい谷』

作者: エルディ

えぇ、お忙しい中、ご覧いただき誠に御礼申し上げます。何かの縁でしょうから、しばらくお付き合いいただけたらうれしい限りでございます。

今回は創作落語をお送りしようかと思います。落語風の短編喜劇みたいなもんです。

まあそもそもなんでかって申しますと、有名な落語の噺を聞きまして、ちょっと思いついたもんですから、いっちょまねごとでもしてみようかと思 いまして。今どきの言葉でいうとインスパイアですかね、うん。その噺とは「頭山」です。最後まで読んでいただければ、わかる人にはわかるんじゃないかと。あ、でも知らなくても大丈夫ですよ。予備知識は不要です。

さてさて、たいして長くないので、一席お付き合いいただきたい。

で、ですねぇ、題名をみればわかると思いますが、ちとお下劣な話です。そのへんはあらかじめご了承いただいてですねえ。気を悪くされるかたもおられるん じゃないかと心配しておりますが、まあ大目に見ていただきたいです。落語を聴くかたはおわかりと思いますが、落語にもお下劣な話ありますからね。私はそんな詳しいほうではありませんが。

話す前に講釈たれるのは無粋ってもんですかね、やめときましょう。ただ、ちなみにこれだけは言っておきますが、「ムーミン谷」とはなんの関係もないですからね。ムーミンみたいな心あたたまるファンタジーだと勘違いして開いてしまったかたはごめんなさい。下ネタちゃあ下ネタなので、その点は申し訳ないです。お子さんはどうでしょうねえ、幼稚園くらいのお子さんのほうが意外と素直に楽しんでくれくるかもしれませんが、まあ、保証はしませんので、あしからず。

ただ、なんでちっちゃい子は楽しんでくれそうかと申しますと、子どもは喜々としてお下劣な話を楽しみますし、何よりも子どもはおっぱい大好きですよね。嫌いな子なんていないでしょう。それはつまり、お母さんが好きってことですよね。で、男が大人になってもつい胸もとに視線がいってしまうのも、そういうわけ じゃないかと思います。女性は偉大ですね。ええ。あ、ちなみに私は見ませんよ。ここは強めに言っておきましょう。そんなことしません。内面重視です。

このあと読み進めたら、なんの説得力もないかもしれませんが……

まあ、とにかく男は一般論として女性のおっぱいが好きでしょう。それは昔も今もかわらないと思うんですよ。ほら土偶だって乳房をつけてるでしょ? あれは豊穣の願いをこめてですかね。

とにかく、一般論としてです。でももちろん、子どもみたいにそうそう公言はしませんよね。それが大人ってもんです。ところが江戸のある長屋に熊五郎ってのがいまして、自称正直者だからと「おっぱい好き」を公言してはばからない。はばからないどころか周りに迷惑をかけておりまして……


トントン、トントン

「熊、入るよ」と言って長屋の大家のおかみさんが熊五郎のうちへ。

「あー、なんだ、おかみさんか」とがっかりして言う。

「なんだじゃないよ。昼間っからねころんで」

「おっぱいかと思ったよ」

「ばかいってんしゃない。おっぱいが戸をたたいて来るもんか」

「呼んでりゃ、いつかくるかもしんねえ」

「それだよそれ。長屋のみんなから苦情きてんだ。熊がうるせえって」

「あーわかった、わかった。おっぱいじゃなきゃ、とっと帰ってくれ。あゝ、おっぱいもみてえなあ」

「それを言ってんだよ。一日中もみてえ、もみてえって。ひまなあん摩さんだって言わないよ」

「しょうがねえじゃないか。もみてえもんはもみてえんだ。あゝもみてなあ、おっぱいもみてえなあ」と言って手をやらしく動かす。

「だからって叫ぶことたあないじゃないか」

「おれは正直者なんだ」

「まったく屁理屈言って。じゃあ女郎屋でもいってくりゃいいじゃないか」

「金がねえんだよ。あ、おかみさん。金くんねえか」

「やだね。そんなことのためのくれてやるもんかあ。貸しもしねえよ」

「ちッ、けちだなあ」

「まったくしょうがないねえ。ひと肌脱いでやるか」

「お、くれんのかい?」と言って熊五郎は起き上がる。

「金はやんねえよ。でもしょうがないからあたしのもませてやるよ」と言って着物を脱ごうとする。

「おいおいやめてくれ。誰がばあさんのしおれたもんもみてえって言った」と言ってまた寝転ぶ。

「失礼するね。おっぱいはおっぱいだ。それにあたしだって昔は…」

「べっぴんだったって言うんだろ。その話百ぺん以上聞いた」

「じゃあどんなおっぱいがいいって言うんだい?」

「そうだなあ」と言って目をつむり、両手を宙にひろげおっぱいをもむふりをする。「大きさはこのくらいでぇ、若々しくて張りがあるのにやわらかくて、ふかーい谷間があるのがいいね。そうそうフジワラノリカみたいなおっぱいがいい」

「誰だい? そりゃ。お公家さんかい?」

「知らねえ。夢に出てきたべっぴんさんだ」

「まったくしょうがないねえ。ゆめとうつつの区別できなくなってるよ」

「あゝ、どっかにおっぱい落ちてねえかなー」

「ばか。落ちてるもんか。まったくしょうがないねえ、連れてきてやるよ」

「お、そうこうなくっちゃ。で、どっから持ってくんだい?」

「持ってくるって言いかたはやめなよ。若々しくて張りがあるのにやわらかいおっぱいの持ち主を思い出したんだ。連れてこれたら連れてきてやる」

「首に縄かけてでも連れてきてくれ」

「そんかわり、連れてきたら、もう黙っておくれよ」

「もませてくれたらな」

「よし、約束だよ」と言っておかみさんは熊五郎のうちを出ていく。

「早くしてくれよおー」と熊五郎はあぐらをかき、まえのめりでそわそわ。


ところが、おかみさんなかなか戻ってこない。

熊五郎、さすがにうつらうつら。

とそこへやっと……

トントン

熊五郎はハッと目を覚まし、「遅えじゃないか、おかみさん」

「ちっと説得するのに時間かかってね」

「あゝいいから、早くあがんなよ」と熊五郎はそわそわ。

「その前に、目をつむっておくれ」

「なんでだい?」

「もませてやってもいいけど、顔は見られたくないって言うんだ」

「ん?」と熊五郎はしばらく思案。「んー、まいっか、もめるんなら。あゝわかった。目をつむるよ」

「ほんとにつむったかい?」

「あゝ、おれは嘘つかねえ。正直者だって言ってんだろ。早くしろやい」と言って両手を前に差し出す。

すーっと戸があいて、二人が入ってくる気配。熊五郎はたまらず、手をやらしく動かす。

「ほら熊。もんでいいよ。やさしくな」

「おお」と熊五郎は緊張しながら手を動かす。「ああ、やわらけえ。こりゃいい」

「だろ? 若々しくて張りがあるだろ?」

「ああ。おかみさんありがとう。目あけちゃだめかい? この娘さんにも顔を拝んで礼を言いてえ」

「だめだめ。約束だからね。恥ずかしい気持ちもさっしてやって」

「まあそうだな。ありがとうな、娘さん。せめて声ぐらい聞かせてくれよ」

「だめだめ」

「声もだめなのかい?」

「ああ。ほらもう十分だろ。手を離しな」

「ええー、もうちょっといいだろ」

「だめだ」と言っておかみさん、熊五郎の手をつかみ引っ張る。

「もうちょっともうちょっと」

とやってるうちに熊五郎の手につい力が入る。

「痛え、痛えー」と男の声。

熊五郎は驚いて目を開けると、前にいたのは長屋の食いしん坊八五郎。熊五郎はとっさに手を離し、後ろにのけぞる。

「八じゃねえか。こりゃなんだ、おかみさん」

「だから目つむってろって言ったじゃないか」

「話がちげえじゃないか」

「ちがうもんかい。若々しくて張りがあるのにやわらかいおっぱいだったろ」

「なに言ってやがんだ。男じゃねえか」

「男のじゃだめって言ったかい?」

「言ってねえけど、わかるだろぉ。八、てめえぇ」

「おれだっていやだよ、熊さんにさわられるのなんて」と八五郎は巨体をゆらす。

「じゃあ断れ、ばか野郎」

「おかみさんが好きなだけごちそうしてやるからって言うもんだからさ」

「どこまで食い意地がはってんだ」

「あゝうるさいうるさい。どっちもどっちだよ。さあ、約束だからね。これでもう叫ぶのはやめなよ」

「やだね。あゝもみてえ。若い娘のおっぱいもみてえ」と熊五郎叫ぶ。

おかみさん困り顔。八五郎なにやら思案して、

「そんなにおっぱい好きなら、はずれの神社にお願いしてみりゃいい。確かあそこはおっぱいの神様がいるって」

「なに言ってんだい、八五郎。あそこは子宝や乳の出がよくなるっていうご利益があるだけだ」とおかみさん呆れ顔。

「乳の出をよくしてくれんだろ。じゃあおっぱいのことなら、なんとかしてくれるかもしれねえ」

「なるほどなあ。八もたまにはいいこと言うじゃないか。こうなっちゃ神頼みだ」

「あゝまったくうちの長屋はばかばっかだ。そんなお願いしたらばちがあたるよ」


さっそく熊五郎は神社へ願掛けに行き、観音様に手をあわせる。

「おっぱい様、じゃなかった、観音様。おっぱいをもませてくれ。若々しくて張りがあるのにやわらかいの。頼む。娘のな。あ、さい銭くらいしないとな」

とはいえ熊五郎は持ち合わせがないっていうんで、さい銭箱に手をつっこみ銭を一握り。

「痛てて」と言いながら銭を取り出すと、それをまたさい銭箱に投げ込み、手を合わせる。

「ええ、観音様。おっぱいをもませてくれ。娘の若々しくて張りがあるのにやわらかいの。頼む」いつもまにやら合わせた両手がやらしい動きになってる。


熊五郎は夢の中でおっぱいをもんでいる。

「あゝやわらけえ」と寝言。「ん? 今日のはいつもにましてたまんねえなあ。観音様のおかげだ。ありがとう観音様」

しかし、あまりにもほんものっぽい手触りだったので、目を覚ますと、

「うわー、なんだこりゃ」

なんと熊五郎の胸に大きなおっぱいの山が二つ。目をこすり、触ってみるも取れそうもない。

「お、おっぱいができちまった。あゝひと様のさい銭使ったばちがあたったんだ。どうしよう、どうしよう」と慌てる熊五郎。

「すまん観音様。取ってくれえ。いくらなんでもこりゃないや。あやまってこなきゃ」

しかしどうして、見れば見るほど、すばらしいおっぱいだ。おそるおそるもんでみると、これがまたいい手触り。若々しくて張りがあるのにやわらかくて、ふかーい谷間がある。

「んん、自分でもむのはなんか変な感じだが、せっかくつけてくれたんだから、もうちょっと楽しんでからあやまりにいくか」


長屋では熊五郎が急に静かになったてえんで、ざわざわ。

「熊さん、今日はいやに静かじゃないか」

「はー、熊もきのうのでわかってくれたんだね。よかったよ」とおかみさん。

「なんかしたのかい? おかみさん。大丈夫だろうね。死んでやしないだろうね。見にいったほうがいいんじゃないか」

なんて長屋連中が口々に話す。

そう言われるとおかみさん、

「おっぱいもめないからって首くくってないだろうね」と心配になってくる。「まさかねえ。でもあいつはばかだから。まあちょっと様子を見にいってみるか」

おかみさんを先頭に長屋連中がぞろぞろと熊五郎のうちへ。

「ん? なんか聞こえないかい? 熊の声だ」

「あゝやわらけえ。こりゃいい……」と小さな声がする。

「とうとう熊、頭おかしくなったんじゃないか」

「おかしくなったね、こりゃ」

長屋連中は戸を少し開け、覗きこむ。

熊五郎は自分のおっぱいをもみながら、ごろごろ、ごろごろ。

「あいつなにやってんだ」

「おいおい、熊にでっけえおっぱいが付いてるぞ」

「うわ、ほんとだ」

「自分のおっぱいもんでやがる」

「どれどれ、おれらにも見せろ」

と長屋連中、騒いでいるうちに戸が外れ、ドーン。

「なんだ。おめえら」

「なんだじゃない。熊さんこそ、どうしたそのおっぱい」

熊五郎、恥ずかしがりながらおっぱいを隠し、

「うるせえ。観音様が付けてくれたんだ」

「ほんとか?」

「ほんとだ」

「それにしてもでっけえおっぱいだなあ」

「そうだな」

「ちょっとばかしおれらにも触らせてくんないかい?」

「ばか言え。これはおれのだ」

「観音様のおかげだろ。じゃあみんなのものだ。独り占めしてるとばちがあたるぜ」

「あゝそうだ。そうだ」と長屋の男連中が熊五郎にじりじりつめよる。

「来るな。近づくんじゃない。そんなうすぎたない手で触らせてやるもんか」

「じゃあちょっくら手洗ってくる」

「そういうことじゃねぇ」と熊五郎はおっぱいを隠し、長屋連中をかき分け、うちを飛び出す。

「ついてくるんじゃねえ」と熊五郎、全力疾走。それを追っかける男連中。

男連中、追っかけながら「おっぱいもませろーもませろー。観音様からもらったもんだろ。拝ませろ―」と叫ぶもんだから、町中に話が尾ひれがついて伝わってく。

「おっぱいもませてくれるらしいぜ」「なに?」「でっけえおっぱいさわりほうだいらしい」と男連中。

しまいには女連中の間でも「観音様があらわれた」とか「さわると子宝に恵まれるらしい」「乳の出がよくなる」「フジワラノリカみたいなナイスバディになるそうだ」「誰それ? お公家さんかい?」「さあ?」だとか。

他にも「長寿のご利益がある」とか、もう尾ひれどころか別の話にもなって伝わる。

とまあ、町中から老若男女が集まってきて、熊五郎を追っかける。

「くそー、たかがおっぱいにばか野郎たちがくっついてきやがる。早くこんなもん取ってもらわねえと」と熊五郎は神社を目指して走る。

やっとこさ観音様の前までたどりつく。

「観音様、観音様、すまねえ。もうさい銭盗まねえし、おっぱいもみてえなんて言わねえから、これ取ってくれ。すまねえ、すまねえ」

しかし、あっという間に町中の人たちに囲まれる。

「おい、近づくな」

「いいじゃないかあ、熊さん。ちょっとさ」

「あゝちょっとさ」

「あたしは乳がでなくて困ってんだ」

「長生きしてえぇ」

と口々に言いながら熊五郎につめより、手を伸ばしてくる。

「観音様すまねえ、すまねえ。なんとかしてくれえぇぇ」と熊五郎は叫ぶが、観音様はいつもどおりのすまし顔。

そうこうしてるうちに熊五郎は神社の隅に追い込まれる。

「おいこら、どっかいけえぇ。うわっ、さわんな。ばか野郎。離せ。くそ。逃げ場がねえ。こりゃたまらん。もうだめだあァアァァー」

と、熊五郎は自分のおっぱいの谷間に身を投げた。


ー おしまい ー

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