別れと出逢いと
三話同時更新です。
お詫びはまたいずれ…
相変わらず、朝にはワイバーンの鳴き声がうるさいのです、この郷は。
「…ったくなの。おはようなの、お母さん」
隣に寝ているだろうお母さんに朝の挨拶をするが、隣には誰もいなかった。
「…相変わらず、起きるのが早いの」
わたしがベットから降りると、机の上に手紙が置いてあるのを見つけた。
「なんなの?これ」
わたしは手紙を読み上げた。
親愛なる娘、ハーティアへ
ハーティア、貴女がこの手紙をみているとき、わたしは既にこの郷には居ないでしょう。
でも心配しないで?
少しだけ、出掛けないといけない用事があるだけで、それが終わったら、直ぐに帰ってきます。
貴女には寂しい思いをさせてしまうかもしれませんが、きっとまた会えます。
その日まで、どうかお元気で、私のハーティア。
ラストメア・クリスタル
「なに、よ、これ?なの」
この展開は、昔、そう、私が生まれる前にみた記憶に、鮮明に残っている。
『詩音、お母さんは止めにいってくるね?たまにあることだし、直ぐに戻るから、いい子で待っててね♪』
あの最後の言葉が、私の頭の中に、再び響いてきた。
また、わたしはお母さんを失うのか。
なんで?待ってよ、行かないで?行かないでよ!?お母さん!!
「ふざ、けないで。お母さんは、どこにいるの!!」
わたしは、お母さんの手紙を片手に、お父さんのもとへ向かった。
「……ああ、ハーティアか」
お父さんは、目の下に隈が出来ていて、とても草臥れていた。
「お父さんは、知っているの!!
絶対に、お母さんが何処に行ったか、知っているの!!そうでしょう!?お父さん!!」
お父さんは、目を見開いて、しばらくわたしを見つめていました。
「……手紙に、そう書いてあったのか?」
「書いてなかったの。けど、お母さんとは、このままいけば二度と会えないってことくらいは、感じとることが出来るの!!」
お父さんは、驚いた顔をしたあと、力なく笑っていた。
「ああ、もうお母さんには会えないだろう」
「なんでなの!?昨日まで、あんなに楽しかったのに、次の日にはいないなんて、訳が分からないの!!」
わたしは、このとき、とても混乱していたが、この時の憤りは、決して忘れることはないだろう。
「……本当は、もっとハーティアが大きくなってから、話す予定だったんだがな……なぁハーティア、カーラを覚えているか?」
カーラは、私が生まれて直ぐに連れていかれた所にいた、大きな竜のことです。
「カーラはな、『守護竜』と呼ばれている、恐らく世界で一番強い生き物だ。
カーラの仕事は、『神殿』を守ることだ。
そこで、わたしたち妖精の結界の技術に目をつけたんだよ」
「それとお母さんに、なんの関係があるの?」
「まぁ聞け。守護竜は、わたしたちを守る代わりに、私達に『神殿』の結界を張るように交渉してきた。
今までなら、月に一度、魔力の強いものが四人もいればどうとでもなっていた。
だが、数百年前、勇者と呼ばれる人間が、カーラと戦ったのだ。
長い戦いで、勇者はカーラの尻尾を切って逃げていったのだが、その時の戦いで、結界がボロボロになった。
それだけならよかったのだが、その頃からわたしたち妖精には、子どもが生まれなくなっていた。
理由は分からないが、それで、寿命がなくなり、妖精の数が減っていくと、結界の維持が困難になってきたのだ。
そんなときに、異常な魔力を持って生まれたのが、ハーティア、お前だ。
結界が無くなることを恐れたカーラは、お前を差し出せといってきた。
カーラは、お前を殺し、純粋な魔力の塊として結界に組み込むことで、結界を維持しようとしたのだ。
ラスは、妖精の中でも強大な魔力の持ち主で、ハーティアの代わりに自分が結界になると言ったんだ。
そして、5年という猶予期間が与えられ、それも終わりがきた、そういうことだ」
「……カーラとは、カーラとは、対等な関係じゃなかったの?」
「……対等な関係だったさ。だが、勇者との戦いで、カーラの性格は、徐々に変化していった。昔は、とても優しい、わたしたちの『友』だったさ」
「お母さんを取り戻すの!!お父さん、カーラの言いなりでいいの!?お母さんがいなくなってもいいの!?」
お父さんは、物凄い形相で立ち上がり、わたしをにらめつけてきた。
「いいわけがあるかっ!!だがな、この郷には、おれたち以外にも住んでいる奴等は大勢いる!!俺はこの郷の守人として、村を陥れるようなことは出来ない!!」
話は平行線だな。ならば、わたしにも考えがある!!
「……もういいの。ここまで不快になったことは、今までなかったの。お父さん、今まで、ありがとうございました」
わたしは、精一杯お父さんに今までのお礼を言うと、家を出ていきました。
「おい待て、ハーティアっ!!」
お父さんが追いかけてきますが、追いつかせるわけにはいきません。
「わたしは、後悔だけはしたくないの。ごめんね?お父さん」
わたしはお父さんの周りに、無音と通過不可の結界を張った。
「……っ!!…!!……!!」
何て言ってるのか知らないが、今は構っている暇なんてない。
「本当にいいのか?」
フラン大先生が、道の前に立ち塞がりました。
「どいてなの、フラン大先生。わたしは、行かなくちゃならないの」
「だろうな。わたしが君でも、きっと同じことをするだろう」
「だったら、どいてなの」
わたしは今、自制出来そうにないのだから…
「カーラがどこにいるのか、知っているのかね?」
「……あ」
迂闊だった。わたしはどこに向かっていたのだろう?
「先ほど、クラリスさんから連絡が入った。君のお母さんは、助けることが出来なかったそうだ」
……うそ、うそよ、お母さんは、まだ、まだ生きている。
そうじゃないと、わたしは、わたしは……!!
「うそよ!!なんで!?またわたしは、わたしは!!」
「落ち着きなさい、ハーティア」
「うああああああああああああっ!!」
わたしは、感情に任せて魔力を解放しました。
わたしの背中にあった小さな翅は、空を覆わんばかりに広がり、わたしの髪は、青みがかった緑から、純白の長髪へと変化していったが、このときのわたしには、この程度の出来事など、認識する余裕なんてなかった。
「やはり、ハーティアは運命の外側の存在なのね」
わたしの目の前に、少しだけ桜色の銀髪で、とても優しそうな顔をした、まるで神話の神々のような美しい女性が、浮いていた。
「クラリスさん!?今のハーティアは暴走しています!!早く離れて……」
「フラン、わたしが誰か知らないの?」
頭の中がぐちゃぐちゃになっているこのときの私でも、クラリス・ハートの存在は、しっかりと記憶されていた。
「わたしの名前は、クラリス・ハート。
『不幸と絶望の魔女』、そして、『世界に刃向かう者』の創始者です」
クラリスは、わたしの瞳を、その瞳で覗きこんだ。
すべてを見透かすかのような金色の瞳には七芒星が、燃え盛る血のような紅い瞳には、六芒星がわたしを見つめている。
「貴女には、ここで死なれては困るの。
お互いの為にも、今は少しだけ寝ていなさい」
「お、母、さん……」
わたしの体から、急速に魔力が失われていき、わたしは意識を手放した。




