旅立ち
「じゃあ、行ってくるの」
ハーティアは旅支度を終え、フランと二人で妖精の郷の出口に立っていた。
郷には、見送りをしようと沢山の妖精が集まっていて、ハーティアとフランに、別れの言葉をかけている。
「ハーティア、これを持っていけ」
ハーティアの父、ガイルは、ハーティアにケースに入ったトライルと、虹色の珠が一つだけ付いたネックレス、そして、真紅の刀と小太刀を一本ずつ。
「……重くて持てないの」
五歳の体では、本物の刀は思いのだろう。
「ハーティア、その刀に、魔力を流してみろ」
言われるがままにハーティアが刀に魔力を通すと、大きな刀は、ハーティアサイズの長さと大きさになり、それほど重たくもなくなった。
「それらは、ラスが昔持っていた物だ。
きっとハーティアの今後に役立つだろう」
ハーティアは、ネックレスを着け、刀を二本とも腰に着け、ケースに入ったトライルを持って、ガイルに涙の溜まった瞳を向けた。
「この前はごめんなさいなの!!
わたし、動揺してて、お父さんに酷いこと、しちゃって………
それから、ありがとうなの。いままで育ててくれて、本当にありがとうなの!!
だから、見ててなの、お父さん。
わたしはきっと強くなって、お母さんを助けるの!!……そしたら、また三人で、楽しく暮らすの」
ガイルは、泣かないように下唇を噛みながらハーティアの話を聞いていたが、愛娘の言葉に、遂に抑えきれなくなって、ハーティアに抱きついた。
「すまない、すまない、すまない、……」
ガイルは、ただ謝りつづけていた。
「お父さん、ここは謝るところじゃなくて、気をつけてな、とか、無茶はするな、とか言って別れる、感動の場面なの」
「ああ、そうだな……ハーティア、お前が帰ってくるまで、この村は俺が守る。
お前の帰る場所がここだということを忘れるな」
ハーティアは、満面の笑みで頷いた。
「お父さん、頑張ってなの!!」
ハーティアはガイルに近づくと、ガイルの頬に軽くキスをした。
「えへへ、わたしからした初めてのキスなの!!お父さん、みんな!必ず帰るから、お土産を期待して待っているの!!」
凄く喜んでいるガイルや、凄く羨ましがっているフラン以外は、泣きながらハーティアたちを見送った。
「なぁ、ハーティア……」
「大先生、まずはこの大陸を南に下りながら、獣人種の集落を廻って音楽活動をするの」
「ああ、分かった。それでだな、ハーティア……」
「音楽活動しながら、一緒に音楽活動をしてくれる人を募集するの」
「そうだな、やはり仲間はこの先必要だろう……それでな、ハーティア……」
「一通り終わったら、次は別大陸なの。
中央大陸か、西大陸かはまだ決めてないの」
「ハーティア!」
そこで、フランに強くでられて、仕方なくフランの話を聞くことにしたハーティア。
「……なんなの?フラン大先生」
「な!?なんかトゲがあったぞ!!今の言い方!!
っと、そうじゃなかった。
……わたしにも、キスをしてくれないかな?」
ハーティアは、溜め息を一つ溢した。
「……はぁ、分かったの、顔を下げるの」
ハーティアとフランには、大人と子どもの身長差があったため、キスをするなら、ハーティアを持ち上げるか、フランがしゃがむしかない。
「あ、ああ、しかし許可を貰えるとは……」
フランが嬉しそうにしゃがむと、ハーティアはフランの顔にハイキックをかました。
「ぶへぅ!?」
ハーティアは、倒れたフランの頬にキスをした。
「今のは、わたしが寝ている間に、何度も襲おうとした仕返しなの。甘んじて受けるの」
痛がりながらもよだれを垂らすフランに、ハーティアは、やれやれと首を振った。
「フラン大先生、この大陸にいる間真面目にしていたらご褒美をあげるの。
……前よりも、もっと凄いことなの」
ハーティアがそう告げると、フランは勢いよく起き上がり、土を払い、物凄く真剣な顔をした。
「行こう、ハーティア!!我々は、成すべき大志があるのだから」
ハーティアは苦笑いをしながら、小さく頷いた。




