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鏡の外のアリス  作者: ちまこ
小タイトル
1/4

蚊帳の外のアリス-1



――ひとつ確実なのは、わたしは何の関係もなかったということ。

  もう何もかも、蚊帳の外だったのです。




 竹が眩しくて目が覚める。

 わたしは障子越しに伝わる日光から、まだ日が明けてもいないことを悟る。観念して時計を見れば、深夜2時である。豆電球でも眠れないデリケートなタチであるというのに、なんという仕打ち。

 まあ、いい。カリカリしていても仕方がない。とりあえずトイレとでも洒落こもう。


 竹が眩しくて目が覚める。

 殺意を押し殺し、あくまで憂鬱な乙女の表情で時計版を睨みつければ、まだ3時である。早い。早すぎる。

 まあ、いい。カリカリしていても仕方がない。とりあえず朝風呂とでも洒落こもう。


 竹が眩しくて目が覚める。

 朝5時である。早い。早すぎる。ちなみに風呂から上がって再び床についたのは4時である。

 まあ、いい。カリカリしていても仕方がない。とりあえずお気に入りのサイトのチェックでもして寝落ちしよう。


 竹が眩しくて目が覚める。

 朝8時である。わたしはもう知らん。寝る。さっきからわたしが何回、何かにつけ洒落こんだと思っている。もうやることなどない。

 父が学校に行けと煩いが、断固聞こえないふりである。わたしは体調不良を主張した。要は寝不足である。成長期的には立派な体調不良である。それでも学校にいけとは、冗談もほどほどにしていただきたい。

 人間とは学ぶものである。父がいなくなった後、居間に布団を移し、そこで寝に入った。途端、掃除の邪魔だと父に布団ごと撤去され、また元の寝室へと出戻りをくらった。非情である。


 竹が眩しくて作業できない。

 寝室のドレッサーが唯一の作業机だったというのに、これではパソコンも使えないし本も読めない。

 ドレッサーの鏡には相変わらず光る竹が写っていた。電気もつけず、障子から漏れる日の光しかないこの部屋は薄暗いが、煌々と光る竹のせいで局所的に眩しく、非常に中途半端な作業環境となっている。何をするにつけても最悪と言っていい。


 十中八九、中にいる。アレが。

 光る竹といえば、通りすがりの爺さんが切った時に生まれてくるアレである。


 お洒落な一等地に一本光る竹があれば、前衛的な間接照明とも思えるかもしれない。――が、これは明らかに違う。ご親切にも人んちの鏡の中から、近代的な室内コーディネートを演出する意味はあろうか。あってもなくてもいいが、とにかく邪魔だから撤去して欲しい。

 しかし竹が光っているというのに、竹取の爺はおろか、猫は一匹しか通らなかった。和んだ。

 何故こうなるのか。睡眠不足という実害が出ている以上、さっさと話を進めてくれなければ困るのだ。何しろこの竹のせいでここ数日寝不足である。まだ見ぬ翁に怒りを隠せない。野山に混じりて竹を取りつつ、よろづのことに使えよと言いたくもなる。

 もういい、わたしは寝る。ふてくされて布団をかぶる。竹が眩しくて目が覚める。


 いい加減しろ。

 気づけばキャラクターものの壁時計が鏡をすり抜け、光る竹を気持ちよく折った。その衝撃で、時計は悲惨な音をたててバラバラに壊れる。光は消え、竹はへし折れ中が顕となり、この部屋には穏やかな暗闇が訪れた。しかしそんなことは今はどうでもいい。

 時計壊れた。どうしよう。

 まだそう古くない壁の時計が大破した。しかし既に鏡の向こうに追放されてしまった。いや、あっちに行ってしまった以上、誰にもばれはしない。オールOK。


 ふと、竹林の奥から何かが近づいてくる気配がして飛び上がった。誰かが時計がクラッシュした音を聞きつけたらしい。反射的に身を潜め、鏡の端からそっと中の様子を覗く。身なりのいい翁が、竹藪の中から現れる。

 翁は従者らしい壮年の男を連れている。二人の会話を聞く限り、翁は村長と呼ばれていた。そしてこの竹林は村長の庭であるらしい。この竹林の奥には豪邸が建っていることだろう。道理で野山に混じりて竹を取らないはずである。

 二人は不信感むき出しで現場を確認していく。どうやら、鏡の向こうからはこちらを認知できないようだ。まるでブラックミラーである。

 そして凄惨な事件現場をかき分けて、竹の中から赤ん坊を取り上げた。泣き声ひとつなかったので忘れていたが、やはり当たりだった。

 子供を持たないらしい翁は、嫁の言葉を聞かないまま、その赤ん坊を娘とすることを決めたようだ。従者は怪しい子供に関して特に何も言わず、赤ん坊を迎える準備のため、翁に言われるまま家へと戻った。


 ちなみに時計の残骸は、二人に勝手に呪い道具と断定された。哀れ、清めてお焚き上げされることが決定し、ネジ一つ残さず持って行かれた。

 わたしがピッチャー大きくふりかぶって投げたことについては、墓まで持っていく所存である。


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