薫の元カノがこんなにゲーマーなはずがない!
私の目の前に現れた理想的美女は、薫の元彼女で私のライバル(仮)・杏奈さん。
改めてその外見を説明してみれば、前回も力説した通り、肌が白い。スキンケアに何時間かけているのか疑問なのだが、透明な肌に予想を裏切らない完璧な容姿。ぶっちゃければ、写真写りの悪いモデルより断然綺麗だ。あの目の大きさは、同じ人間として信じられない。
身長は私と同じくらいで、華奢。年齢が薫と同じだから、私より一つ年上か。それには納得。林檎ちゃんのお姉さんだと聞いて反射的に「ロリっ娘」をイメージしてしまったのだが、それはいい意味で裏切られた。
私が千佳さんに勧められても買わないような、ジーンズとは重ね着できないワンピース。髪の毛は腰近くまで長く、シャンプーのCMに出てくるような艶……本当に私、この人と同じ人間なのだろーか……。
咄嗟に白いイメージが浮かんだ。清楚可憐というか、汚れがないというか……抽象的だけど百合っぽい。(いや、花の百合だよ、一応)
そして、薫の隣に並んでも……違和感がない。お似合いのカップルってこういう二人のことを言うんだってくらい理想的なツーショットは、私でも容易に想像できてしまう。だけど、根本的に色々違うので、張り合ったって勝てるわけがないし……。
同性である私が完全に白旗を上げるしかない、どうやっても目立つ彼女とその場で立ち話をするわけにもいかず、とりあえず私の部屋――要するに学生寮へ避難してきたのだが。
「……あ、あの、ちょっとココで待っててもらえませんか?」
忘れないでいただきたい。私の部屋は唐突な来客に備えられるほど片付いていないんだから!(威張るな)
「都ちゃん、だから奈々が常日頃から――!」
と、小言を言い始めそうな奈々を何とか振り切って。
杏奈さんを入り口で待たせること5分、とりあえず「人並みに」なった部屋の中に入ってもらい、向かい合わせで座ってみる。
「って、何か飲みます? お茶くらいならすぐにもらってきますけど」
バイト疲れもあり、気配りまでまわらない。そんな私に彼女は「いいえ、結構です」と綺麗な声で断りを入れてから、
「ただ、貴女に会ってみたかっただけです。迷惑だと思ったけど、どうしても気になって……」
いいえ迷惑だなんて思ってませんから。私は改めてその場に座りなおし、物静かな彼女をまじまじと見つめる。
以前、大樹君に「都ちゃんと似てるかな」と言われたことを思い出し、全力で否定した。私が似てる? 目の前にいるメインヒロインと!? 滅相もない。
同時に、「男性に付きまとわれる」という話も納得がいった。私が男なら間違いなく追いかけ……以下自主規制。
「あの、沢城さん」
「は、はい?」
名前を呼ばれて背筋を伸ばした。緊張しすぎだ、私。
そんな私へ、彼女は更に、予想外の単語を口にするのである。
「薫に聞いたんだけど……メルティブラッドやってるって、本当?」
……は?
私は彼女が「薫」と名前を口にしたことよりも、その後に続けた言葉のほうが気になってしょうがない。
ま、まさか……まさかこの方の口から「メルティブラッド」という名詞を聞くとは思わず、思わず両目を見開いてしまった。
ちなみに「メルティブラッド」とは、某人気同人ゲームから派生した格闘ゲーム。ちなみに派生元と違って18禁ではない。私も最近ようやく手に入れて、スペックギリギリのパソコンで奮闘しているのだが。
「あ、あの……スイマセン、「メルティブラッド」って、あの、格闘ゲームのことですよね?」
「ええ。最初はパソコンだったけど、アーケードからPS2に移植されたゲームです。確か、「月姫」っていうゲームのキャラクターが戦って……」
あぁ神様、薫がどーしてすんなりBLに逃避出来たのか、何となく分かった気がします。
要因は大樹君だけじゃなかった。彼がこの道に迷い込むフラグは、既に立てられていたんだ。
「私は勿論知ってますけど、どうして、えぇっと……宮崎さんも好きなんですか?」
初対面の年上をいきなり名前で呼ぶのは失礼かと思い、苗字で呼んでみる。
すると彼女は綺麗な笑みと一緒に、「杏奈でいいわよ」と夢のような言葉をくれてから、
「私、元々ゲームが好きで、格ゲーもよくやるの。「メルティブラッド」もアーケードである程度やりこんだけど、一度、元になったPC版をやってみたいって思ってたから」
うわぁ! この方の口から「格ゲー」って単語が飛び出したよちょっとぉ!?
偏見を持ちたくない、これは私の心情だが……林檎ちゃんのお姉さんがゲーマーだなんて予測できず、ありえない事実ばかりで気絶しそうになる。
……だって、妹さんがあんな感じなのに……。
「林檎はあまりゲームに関心がないみたいだから、周囲に話の合う人がいなくて」
関心がないというより、むしろ嫌悪してますが。
「それに、沢城さんがプレイしてるなら……一度、ゲーセンで対戦してみたいな、って」
ゲーセンで対戦!?
「薫、格ゲーは弱いのよ。この間も久しぶりに対戦したけど、やっぱりつまらなかったわ」
大樹君、私と彼女が「似てる」ってこういうことですか?
……何となく、林檎ちゃんが薫を――杏奈さんのことを深く知っている元彼――を頼りたい気持ちが分かるような気がした。多分この美人さんは、男性ばかりの格ゲーコーナーに平気で立ち入り、自分が好きなだけ楽しんで帰るのだろう。周囲がどれだけ注目して、見とれているかも知らずに。
しかもプレイするのは「メルブラ」、下手をすれば私と同類だと勘違いされてしまう。
彼女の行動範囲を理解している薫なら、杏奈さんとはぐれてもすぐに発見出来るだろうし。
今まで雲の上の人だと思っていた杏奈さんとの距離が、光よりも早く縮まっていくのを感じでいた。
「沢城さんも、ゲームをよくやるんでしょう? 最近は何が面白かった?」
「へ!?」
唐突に問いかけられ、思わず言葉に詰まる。えぇっと、私が最近プレイしたゲームは……ゲームは……。
「……て、テイルズシリーズの最新作、かな……」
「もしかしてアビス? でも、最新作ならD2かしら……」
スイマセン嘘です本当は18禁のギャルゲーです!!
最近ネットで見た一般ゲームのタイトルをその場しのぎで言ってしまったのだが、やばい、これ以上話が広がると私がついていけない!!
「あ、あのあのスイマセン! 杏奈さんのお勧めは何ですか?」
「私? 最近ならやっぱり「逆転裁判4」かしら。DSでいつでも遊べるのはお手軽だし、「異議あり!」って言うのが快感なのよ」
笑顔で何の躊躇いもなく言い放つ彼女は、私を完全に仲間だと認識している様子で。
……なんっつーか、もう……何があっても驚かない気持ちでいたんだけど……驚いた。
それから30分ほど、「ストⅡではリュウとケンどっち派か」という懐かしいネタで盛り上がってから、
「沢城さんと話をしてると、時間を忘れちゃうわ。今度はもっと早い時間に来てもいいかな?」
と、尋ねられ、断るわけがない。知り合いに迎えに来てもらうという彼女をコンビにまで送ってから、私は急いで薫の元へ向かった。
そして、開口一番叫んだことは、
「薫! 今度は私も一緒に行く!!」
正直、格ゲーにはあまり自信がないけど……でも、一度手合わせしてみたい!
鼻息荒く許可を求める私に、全てを悟った薫が嘆息しながらベッドに座り、
「……会ったんだな、杏奈に」
彼と対照的に、私は興奮冷めやらぬまま隣に座る。
「会いに来てくれたのよ! っていうかどうして黙ってたの? 杏奈さん、かなり私と話が合いそうな気配なんだけど」
「杏奈はゲームになると性格が変わるんだよ。しかも、めちゃくちゃ強い」
「益々素敵じゃない!」
思わずガッツポーズ。ライバルだと思って構えていた相手と非常に親しくなれそうで、個人的にも少し嬉しいし。
薫はそんな私に「落ち着け」と苦笑を向けると、唐突に肩を抱き寄せた。
バランスを崩し、反射的に彼のシャツを掴む。今日は彼もバイトだったので、制服のカッターシャツからはファミレスの残り香と、
「……俺のこと、少しは気にしてくれる?」
不機嫌そうな声で、そのまま私を抱きしめる薫。何だか久しぶりの感覚に、安心する私がいた。
「俺は、都が杏奈に浮気しそうで怖いよ」
嘆息しながら呟く、もしかしたら本音かもしれない彼の言葉に、思わず苦笑。
うん、ゴメンね薫。正直彼女には激しくときめいた。
「そうねぇ、確かに杏奈さんと浮気したら楽しいことになりそう」
「都……」
「嘘、冗談だってば。っていうか、そんな心配しなくていいよ」
離さないといわんばかりに腕の力を強くする薫に、自然と、私も腕を回して、
「私は……薫しか見てないから」
久しぶりに呟いたのは、自分でも納得のいく本音。
可愛くなりたい、もっと素直に気持ちを伝えたい。そう思うなら、まずは一歩踏み出すことから始めてみたい。
自分の好きなことを話すときの杏奈さんの笑顔が、とても魅力的に思えた。私のことは自分でもよく分からないけど、いつか、あんな女性になれたらいいな。
今よりももっと、「薫の彼女だ」って胸を張って堂々と隣に並べるくらい――魅力的な人に。
だから、
「薫も……浮気するなら大樹君ね」
「大樹なら許すのか!?」
寂しいと思っていた気持ちは、いつの間にかどこかに流されてしまって。
だから私はもう大丈夫、杏奈さんとも予想外に話が合いそうだし、薫が浮気する心配もなさそうだし。
そう、思っていた。
本格的に薫が登場。別れた元カノと会え、そして次から一緒に会わせろという今の彼女……うん、都さん、経験値が2次元だけでもこれはヒドイ。