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望まないモテ期!!

 人生には「モテ期」と呼ばれる期間があるらしい。私が聞いたことあるのは、3回。仮に人生80年だとして、約30年に一度アバウトだな、異性にモテる期間が巡ってくるということだろう。

 多分、ギャルゲー乙女ゲーの主人公の皆様は、人生3回のモテ期が一度にやってきたんだろうけど。

 ただ、薫のように年中モテ期……という人がいるから世間はよく分からない。まぁ、彼の場合は特異なケースだと思うけど。

 要するに何が言いたいのかといえば……私・沢城都人生初の「モテ期」は、既に終了したと思い込んでいた。だって、薫が私に好意を示して、ここまで大切にしてくれているのである。個人的には男性5人から一気に告白されるよりも数段に嬉しい。

 だから、私は薫しか見ていなくて……周辺に対して非常に疎かになっていたことは、紛れもない事実なのである。


「沢城さんの彼氏って、文学部の新谷って人ですよね?」

 現在バイト中。某大手チェーンのレンタルショップで働いている私が、返却されたビデオやDVDを所定の場所に片付けていると。

 私と同じ作業をしていた後輩君が、唐突にこんなことを聞いてきた。

 最近新入りとしてバイト仲間になった彼・宮田直純君は、大学の新入生。年齢的に一つ年下で、学部的には薫の後輩になるらしい。

 短髪で無駄のない顔立ち、見るからに接客向きな爽やか君であり、元気でよく通る声(高校生のときはラーメン屋でバイトしていたそうだ。納得)、笑顔と白い歯が魅力的な典型的好青年である。身長は160センチ強とそこまで高くないが、本人は「これからまだ成長するんです!」と、希望を捨てていない様子だ。

 仕事覚えの早くて社交的な逸材なので、バイト開始から1週間、既に現場に溶け込んでバリバリ頑張ってくれている。

 年齢的に近いこともあり、私が彼の教育係として業務の基礎を教えたのだが……もう私が教えることは何もない、どこぞの師匠みたいな言葉を口にしたのは、つい先日のことだ。

 立場的には「研修中」だけど、それも時間の問題だろう。一人暮らしでお金が必要だと行っていたので、時給がアップする(研修中の時給は低いのですよ)のは彼にとっても嬉しいことじゃないだろうか。

 他のバイト仲間(女性)の間では、彼に狙いを定めたお姉さま(パートさん)が出現しているという噂が飛び交っている。まぁ、個人的にどうでもいいから適当に聞き流したけど。

 韓国ドラマのDVDを整理しながら、私は素直に首肯する。

「うん、そうだけど……それが?」

「昨日、友達が言ってたんですけど……その人が、沢城さんじゃない女性と一緒に歩いてたって聞いて」

 あぁなるほど。まだ顔も知らない杏奈さんのことだな。

 私が納得して、「あぁ、それなら知ってるよ。別に彼女とは何でもないから問題なし」と一言で突っぱねると、隣でアメリカドラマのDVDを片付けていた彼が「何言ってるんですか!」と、思わずお客さんが振り返るような声を上げて反論する。

「沢城さんっていう彼女がいながら、他の女と二人で歩いてるんですよ!?」

「いやだから、それ、私も知ってることだし……っていうか、もう少し声のトーンは落としてね?」

 私が周囲を気にして釘を刺すと、彼――宮田君は「スイマセン」と萎縮して、再び作業を進めながら、

「それに……その新谷って人、相当モテるらしいじゃないですか。俺は沢城さんが遊ばれてるんじゃないかって……」

 む。どうして薫のことを遊び人みたいに言うのかな彼は。

 まぁ、実際何度か言われたりする。薫はしょっちゅう告白されるので、「沢城ちゃん(パートさんからのあだ名)、新谷君(薫のことは「モテるイケメン」という認識)の携帯とかチェックしなくていいの?」と、本気で心配されたりするのだ。私はむしろ、パートさんがどこからそんな情報を仕入れてくるのかが気になって仕方ないのだけど。

 ただ……彼がそんな人じゃないことは、私が誰よりも理解しているつもりだから。

 さっきの彼の発言に、少し不機嫌になりそうな自分を自制する。

「心配ご無用。それに……選ぶのは私じゃないでしょ。私は薫を束縛したいわけじゃないから、彼の行動にいちいちチェック入れたりしないよ」

 それに今回は、渋る彼を私が強引に引っ張り出したようなものだしね。

 昨日、心底疲れた顔で帰ってきた彼を思い出しながら苦笑する私は、そのコーナーでの片づけを終えて、次のブロックへ移動しようとしていた。

 よし、次はアニメ新作だな。どれがレンタル解禁になってるかチェックする絶好の機会。

 現在時刻は午後8時、家族団らんの時間にお客さんが少ない。ただ、夜9時を過ぎてからが大変になるんだけど……そんなことを思いながら、内心は満面の笑みで移動する私に、宮田君がすれ違いざま、


「俺なら、沢城さんにそんな思いさせません」


 反射的に立ち止まる。

 同じくそのコーナーの整理を終了させて次へ向かう彼が、立ち止まった私を追い越そうと近づいて横並びになり、


「出会ってから日も浅いけど……沢城さんのこと、好きになりました。俺とのことも、少し考えてもらえませんか?」


 私は何が起こったのか理解できず、その場に呆然と立ち尽くす。

 乙女ゲームの主人公体質、以前言われた言葉が、頭をよぎって。

 お客さんに新作邦画の場所を聞かれて持っていたDVDを取り落とすまで、何も、考えられなかった。


 そしてそれから、彼の猛攻が始まるのである。


「いや、大丈夫だから……」

 ラウンド1、自転車で帰る私を彼が送っていくと言って聞かない。

 宮田君とは帰る方向が反対だし、自転車で10分も走れば寮にも薫の部屋にも着けるので、私は彼の誘いを丁重にお断りしたのだが。

「こんな夜道を一人で帰らせるわけにはいきませんよ!」

 という、非常に紳士的な理由で半ば強引に伴走。気がつけば大学近所のコンビニまで送ってもらったのだが、さすがにもう、これ以上は……。

「家まで送りますよ、どっちですか?」

 いや、私これから家(寮)に帰る気なんて全くないんですけど実際のところ。

 コンビニの駐車場で自転車を止めてさっきからこの調子。少し強引に断ったほうがいいような気がして、私が一度、呼吸を整えた瞬間、

「都さん?」

 道路を渡ってコンビニへ近づいてきた人影が、優しい声で私の名前を呼ぶ。

「お、都ちゃんじゃない。バイト? お疲れさまー」

 後ろから追いかけてきた人にも声をかけられ、車のライトが逆光で顔こそ確認できなかったものの、

「真雪さんに千佳さん、こんばんは」

 気さくに手を振ってくれるのは、今ではすっかり性別不詳になってしまった千佳さん。先に声をかけてくれたのは勿論、相変わらず優しく綺麗なお姉さまである真雪さんだ。

 Tシャツにジーンズというラフな格好でやってきた二人が、私と……隣にいる彼を交互に見比べて、

「都ちゃん……浮気ぃ?」

「人聞きの悪いこと言わないでください!」

 千佳さんの冗談に思わず声を荒らげた。すかさず「千佳、そういうこと言わないの」と真雪さんが釘をさし、もう一度、私と宮田君を交互に見比べて、

「そういえば都さん、前に欲しいって言ってた教科書、私やっぱり持っていたみたい。今から時間があるなら、取りに来ない?」

 一瞬目を見開き、真雪さんを見つめる。そして、一度だけ苦笑いを交し合ってから、

「本当ですか? あの講義の教科書、高いから買いたくなかったんですよー。でも、今からで大丈夫ですか?」

「ええ。渡せるように準備してるし……丁度、夕食のカレーも余ってるの。よかったら食べない?」

 ま、真雪さんの手作りカレー!?

 思わずそこに反応した素直な自分に失笑しながら、

「じゃあ私、真雪さんの所に寄るから。今日はわざわざありがとね」

 宮田君に愛想笑いを返して、一旦、二人とコンビニの中に入る。

 何も言わずに私の背中を見つめた彼は……自転車にまたがってから、一度、ため息をついたのだった。


「……スイマセン、助かりました」

 コンビニ内、お菓子コーナーで真雪さんに頭を下げると、

「本当に困ってたのね……お節介だと思ったけど、結果的にはよかったわ」

「っていうか都ちゃん、あの彼、何者?」

 かごの中にスナック菓子を放り込んだ千佳さんが、コンビニの外、先ほどまで彼がいた場所を見つめて尋ねる。

「バイト先の新入り君なんですけど……どうも、何か勘違いしてるみたいで」

「勘違い? あたしには彼が都ちゃんへ好意を持っているようにしか見えなかったけど」

「それが大きな勘違いだと思うんです……」

 レジに向かった真雪さんより先に外へ出た私と千佳さん。千佳さんはため息をつく私をじぃっと見下ろしてから、

「新谷君は知ってるの?」

「知らないと思います。それに……私が好きなのは薫だけですから」

「都ちゃんはそれでいいかもしれないけどさ、新谷君が別の女と歩いてたって噂、知ってる?」

 ちょっと待ってくれ世間。どうしてこんなに早くそんな噂が立つんだよ!?

 薫の認知度と世間のワイドショーレポーターぶりにあいた口がふさがらないのだが、

「やっぱり知らなかったんだ……」

「いや、薫が彼女と歩いてたのは……私が仕組んだようなものです。だからそれに関しては特別問題ないんですけど……」

「はい? 都ちゃん、それはどゆこと?」

 丁度、支払いを終えて出てきた真雪さんと合流。私がその噂にいたるまでの経緯を簡単に説明すると、腕を組んだ千佳さんが心底驚いたような表情で、

「じゃあ、都ちゃんは……自分から新谷君を別れた女と引き合わせたの?」

「まぁ、そういうことになります」

「信じられない……いくら妹の頼みとはいえ、そこまでしてあげる必要があるの?」

 ちらりと真雪さんに目を向ければ、千佳さんと同様の意見だということが伺える。

 うぐ、そりゃあまぁ……世間の女の子は、自分の彼氏と元彼女をセッティングしたりしないんだろーけどさー……。

 でも、

「林檎ちゃんの頼みですから。薫のことを好きな彼女が、自分のプライドとか、そういうこと全部無視して頼んできたんです。無下に扱ったり出来ませんよ」

 そう、彼女にしてみれば……私に頭を下げるなんてこと、自分からは絶対やらないだろう。

 だから、ここは私が、


「都ちゃん、我慢してない?」

 千佳さんが、私に尋ねる。


「我慢? 私には……我慢するようなこと、何もありませんよ」

 私はそう答えて、複雑な表情の二人を見つめたのだった。


 我慢なんかしていない。それなら、私よりも薫の方が、よっぽど。

 コンビニで二人と別れた私は、自転車をおしながら、彼の部屋に向かっていた。

 先ほどの千佳さんの言葉が、胸の中でくすぶっている。我慢といえばギャルゲーだろうか……大樹君、身辺整理したらマジでご一報を。

 そんなことを考えながら彼が住んでいるマンション前まで来た。自転車を脇に止め、入り口から中に入ろうとした時、


「あの……沢城都さん、ですよね?」

 今まで入り口の植え込み脇に座っていた彼女が唐突に立ち上がり、透き通った声で私の名前を呼ぶ。

「はい、そうですけど」

 条件反射で肯定し、振り返った。

 目の前にいたのは、久しぶりに個人的ヒット、白い肌の美人さん。勿論(?)目は大きいし髪の毛長くてサラサラだしワンピースだし……誰だか知らないけど、フェミニンな格好が恐ろしく似合っている彼女は、目を丸くして首をかしげる私に向かって、


「私……宮崎杏奈です」


 思わず納得する回答をくれたのだった。

後輩弟キャラって出したことがなかったので投入してみました。あざとくないよ!!

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