宮崎林檎の独白
今までのシリーズを組んでの第3弾となっております。
いきなりコレから読み始めると、色々分かりづらい……かも。
先輩はいつも、「私以外」の女性を見ている。
近隣の男子校に通う一つ年上の先輩は、私達、他校の後輩の間でもちょっとした有名人だった。
顔がカッコよくて、誰に対しても優しくて、勉強も出来て……非の打ち所がない、理想的な人。勿論私の友達も先輩に告白して……結果は全員玉砕。でもそれは、仕方のないことなのだ。
先輩は当時、正確には高校2年生のときから……私のお姉ちゃんと付き合っていたから。
お姉ちゃんは、どちらかといえばドライな人。好き嫌いがはっきりしていて、必要がないと思えばためらいなく切り捨てるような、そんな一面を持っている。
だから正直、先輩と付き合っているという話を聞いたときは……信じられなかった。確かにお姉ちゃんは美人だけど、恋愛沙汰とは無縁な生活を送っていることは私が誰よりも知っている。後に聞いた話では、二人は通学のバスが同じで顔見知りになり、告白したのは先輩からだったらしい。私はお姉ちゃんがその告白を受け入れたことが驚きだし……その事実が羨ましい。
その関係で、先輩が家に来ることもあった。そして、実際に先輩へ近づくにつれて……私の中に、膨らんでいく確かな思いがあることに気付かされる。
相手はお姉ちゃんの彼氏、これは、かなうはずのない恋心。
だけど、そう簡単に諦められるほど……私は出来た人間じゃない。
私は「彼女の妹」として先輩に近づいた。先輩が私を邪険に扱うような性格でないことは分かっていたし、その立場を利用すれば……友達が知らない、先輩の携帯番号だってゲット出来た。
でも、私がそこからランクアップすることはない。私はあくまでも「妹」であり、お姉ちゃんのオマケのような存在なのだ。先輩にとって「彼女」はお姉ちゃん一人だけ。浮気なんか考えられない。
だから、私がここで諦めてしまえばよかったのに。
あの事件がキッカケで、二人が別れたことを知ったとき……内心喜んでしまう自分が、どうしようもなく醜い人間であるように思えた。
だけど結局、私の言葉は届かない。
しばらく誰とも付き合わなかった先輩が、唐突に「彼女」を作ったんだ。
私を含め、周囲は正直驚いた。先輩の隣にいるのは……明らかに「普通」の女性。お姉ちゃんのときほどのインパクトはなかったけど、誰もが首をかしげたのは事実。
二人は単なるセックスフレンド、「彼女」が先輩にお金を渡して付き合っている、「彼女」が先輩の弱みを握っていて、別れたくても別れられない……。 そんな、憶測ばかりが飛び交う中でも、二人は決して離れることがなくて。
私は、たまに見かける先輩が、前よりもずっと、カッコよくなっていることに気がつく。
そして……その隣にいるのが私じゃないことに、苛立ちを感じてしまう。
どうして?
どうして?
私のほうが、前からずっと好きだったのに。
私のほうが、先輩を思っているのに。
私のほうが……先輩のこと、分かっているのに。
今の「彼女」はお姉ちゃんに似ている。
外見とかそういうことじゃなくて……内面的な部分が、とても。
だからきっと、先輩は色々我慢しているはずなんだ。
お姉ちゃんが先輩を振り回したように、「彼女」も自分に正直そうな性格に見えるから、きっと。
これはあくまでも私の憶測。事実がどうなのか分からないけど。
でも……今までずっと先輩を見てきたから、それくらいのこと、分かるつもりでいたいんだ。
……先輩の顔が優しくなっていくことを、まだ、自分の中で素直に認められないから。
大好きな人が自分を見てくれている、なんて……私にしてみれば自分に都合のいい夢でしかない。
どれだけ想いが溢れても、それを受け止めてくれる人がいないのではどうしようもないじゃない。
私は「現実」を知っている。
だから、安易な夢を見ることは出来ない。
自分勝手な想いが渦巻いて、どうしようもなくて……「彼女」に八つ当たりしたこともある。
まぁその分、手痛いしっぺ返しをくらったことも事実なのだが、それでもやっぱり、私は諦めきれなくて。
だって、そう簡単に諦められるような感情じゃない。そう簡単に割り切って次へ進めるほど、私は大人になりきれていないから。
だから。
もう、奇跡には期待しない。
私はちゃんと、自分の思いを伝えようと思う。
新谷薫先輩に……私は、宮崎林檎は、あなたのことが好きです、と。
林檎ちゃん頑張る。頑張れ。