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この物語はフィクションです。
実際の団体や人物には一切関係ありません。
一ノ瀬全は普通の人間ではない。
外見は少し幼顔によく目立つ金髪で、いわゆる「不良」であるが、実はそこは関係ない。
全が普通ではないのは周りと違う力を持っているということ。
つまりは「超能力」である。
物心ついたころにはすでに覚醒しており、その力は「テレキネシス」と呼ばれた。
テレキネシスは「念動力」ともいい、対象物を自由に動かすことができ、やろうと思えば空も飛べるらしい。
両親は一般人であったが、なぜか全だけはそんな不思議な力を持って生まれてきた。
幼いころは自分でコントロールすることが出来ず、物を壊すだけでなく誤って周りの人間を傷つけてしまうことも多々あったため、全は幼稚園に上がる前からとある孤児院に預けられた。
一般的ではない存在が入るのだから、もちろん孤児院だって一般的なものではない。
「警護施設」。
そう呼ばれたその場所には、世間に隠されるべき多くの存在がいた。
例えば、大物政治家の家に生まれてきた、存在を隠される必要のある子ども。
例えば、天才的な頭脳を持つがために、私立の進学校でさえも面倒を見ることができない子ども。
そして例えば、周りとは明らかに違う異質の能力を持ちあわせている子ども。
そんな子どもたちは、施設の中でなるべく「普通に」生活をし、共同生活や他人とのつながりの大切さなどを学ぶ。
全の場合は、とにかく力をコントロールすることに力を入れられた。
感情によっては暴走させてしまうこともあるので、脳外科医に感情を落ち着かせる薬を調合してもらったりと、なかなかに非現実的な生活をしていた。
そんな異質な場所で育った全も、現在は一人暮らしである。
両親が外国に長期の出張に出ると言うからだ。
義務教育というのが理由であったためだけに通っていた中学校も意外とあっさり卒業したが進学はせず、近所にある地元では大きなスーパーマーケットに就職した。
髪を染めているという点で、雇う側としては少し心配な面もあったようだが、全の性格が見た目に寄らずいたってまじめであり、問題を起こすようなことはなかったため、今では普通に店員として扱いを受けている。
その日も普通に仕事を終え、いつもと同じくらいの時間に同じ道を通り自分の住む住宅地に帰ってきた。
一人暮らしを始めたとき、離れた両親から仕送りぐらいはしてやると約束されたので甘えることにしたのだった。
さあ今日の晩飯はなににしようか。
料理ができるわけでもないため大体いつも一緒ではあるが。
背中を赤く染まった日の光に照らされて、自分の部屋のある棟に向かって真っすぐ進んでいくと、郵便受けの前に小さな女の子が一人ぽつんと立っていた。
今は夕方の5時前。
住宅地に住む子どもたちは、母親に半ば怒られながらいそいそと部屋に戻っていったはずなのに、どうしてこの子だけ外に出ているのだろう。
しかも自分の棟の入り口である。
無視して部屋に入るには少し勇気がいる。
「ねぇ、なにしてんの。」
声をかけてみた。
見たことのない顔だった。
3か月しか経ってはいないが、外に出ている子はいつも同じ顔ぶれなため、その母親の顔と一緒に覚えてしまっていたのだが。
目がくりくりと大きくて、前髪はきれいにまっすぐで、長い後ろ髪を下で2つにくくっていた。
小学・・・1年生くらいかな?
「5時だけど、家帰らないの?」
黙っているのでもう1度声をかけてみた。
女の子の表情に変化は全く見られない。
ぽーっとした顔でじぃーっとこちらを眺めてくるばかりである。
(金髪が怖いのか・・・?ごめんね不良な兄ちゃんが話しかけてきちゃって。)
心の中で一人虚しくそう思いながら、現実では負けじと女の子を見つめていた。
数秒後。
「あなたがきさらのお兄ちゃんですか?」
一瞬時が止まったような気がした。
は?と思わず口に出てしまったくらいだ。
何を言っているのか、それとも自分の聞き間違いか、とりあえず全は戸惑った。
「いや・・・オレに妹はいないけど。」
「じゃあきさらのお兄ちゃんを見たことはありませんか?」
また何を言い出すのかと思えば。
第一「きさら」とは誰だ。
「えっと・・・君がきさらちゃんってことでいいの?」
女の子は「はいっ。」としっかりした返事を返した。
どうやらこの子は自分の兄を探して、ずっと棟の前でそれらしき人物を見分けていたらしい。
(なんで自分の兄ちゃんの顔がわかんねーんだよ。)
そう心の中でツッコミを入れたものの、この子の家にもそれなりの事情があるのだろう。
とりあえず全は、今のこの子に自分がしてあげられることは、この子の兄を住宅地から見つけ出すことだと判断した。
「見たことあるかもしれないね。じゃあさ、オレが一緒に探してあげるから。ここの管理人さんとかに聞いてあげるからさ、兄ちゃんの名前教えてよ。」
聞いたあとで顔を知らないのなら名前も知らないのではないかという可能性に気づき、少し苦い思いになったが、その小さな女の子、「きさらちゃん」は完璧に記憶していると言わんばかりに即答した。
「全お兄ちゃんです。」
また時が止まったような気がした。
今度は声も出なかった。
今度こそ聞き間違いであろう、全の口は無意識に動いていた。
「ごめんもう1回言ってくれる?」
「全お兄ちゃんです、一ノ瀬全お兄ちゃん。」
聞かなければよかったと、全は「きさらちゃん」の返答のあとしばらく後悔することとなる。
「きさらちゃん」が出てきました。
漢字表記ですが次回出したいと思います。
全のセリフ、口が悪くなりすぎてしまいます。
がんばってそれなりに抑えようとはしてますが・・・←




