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勇者と弟子の歩む道  作者: いーもり
6/22

さあ、まちにでてかいものだぁ! 1

「ねぇ、起きて、ラーク。起きてってば。もう朝ごはんできてるよ」

「ん……もぅ。わかっら、わかっらからもうちょっと…………」

「何が『分かった』よ!今日はショウさんと町に行くんだよ!」


…………まち……町!!

「プレゼントォォォォ!!」

 やっぱり、まだまだ子供なラークだった。



「やあ、ラーク。美少女に起こされるとは、さぞさわやかな朝でしょう?」

 にやにやといやな笑顔を隠さずにショウが訪ねてくる。この人、思ったよりも優しくないんだなぁ。

「ちょっ、ショウさん、からかわないで下さいよ。そんなことないですってば」

「おや、エリス。ラークは君のこと可愛くないと申しておりますが」

「がっはっは、ラーク、そんなんじゃ女心はつかめねぇぜ」

「そう、ラークはそんなふうに思ってたんだ。ふーん、まあ、わたしはショウお兄ちゃんにかわいいって言ってもらえればいいけどね。ねーっ」

そっ、そんな……ひどい。ここには味方はいないのか…………

「ふふっ、ラークもがんばりなさい。女の子は繊細なのよ」

 …………………シロさん、ほんとにありがとうございます。あなたがいないと心が折れ――――――

「まあ、ラークには無理でしょうけど」

 ―――――なくても済んだんでしょうね。いくらなんでもそういうオチじゃなくていいんじゃないすか。


「さて、今日は昨日言った通りケットに出て、みなさんのプレゼントを買ってこようと思います。朝ごはんも食べ終わったところで、さっそく準備をしていきましょうか」

「おい、シュン、畑はどうする?」

「朝いろいろ終わらせておきました。心配無用です。シロとクロは留守を頼みます」

 笑顔でうなずく二人。それにしてもシロさんもクロさんもとってもきれいな顔立ちしてるなぁ。ドラゴンじゃなきゃモテただろうに。人間にもてても仕方ないんじゃ。まあ、エリスの方が…………何考えてんだろ俺、ここにきてからおかしい。それもこれもエリスがショウさんになつき始めたから――――自分で言っててヘコむって。

「さあ、行きましょうか」

 そんなラークの心中とは裏腹に、燦々と輝く太陽。ちょっと恨めしく思う彼であった。



 ケットの町まで、ショウさんの家から少し歩いた。一時間ほどか、なぜこんなおかしな所に居を構えたのか、よくわからなかったが、町に入った瞬間、理解することができた。


 ざわざわ、ざわざわ。


「ショウお兄ちゃん、みんな見てるよ。なんで?」

 エリスがこらえきれなかったかショウさんに尋ねている。

「そうですよ、ちょっと居心地が悪いです。あと、ときどき聞こえてくる『勇者』とか、『ぶらっでぃぷろふぇっさー』とか、何ですか?」

「さあ、僕にもよくわからないのですが…………なんだかみなさん僕を誰かと間違えているんじゃないですか?」

 ショウさんはしれっと、そんなことを言った。コイツ、絶対タヌキだ。

「……分かりましたよ、そのうち分かりそうなんでいいです」

「ところでショウお兄ちゃん、プレゼントって、どこに行くの?」

「そう言えばショウさん、どこに行くんですか?」

「秘密です」



 えーーー



「――――と、言いたいところですが、一応言っておきます。君たちに初めての武具を買ってあげようかと思います。女の子へのプレゼントにするにはいささか無骨ですが、お許しいただけますか?お姫様」

「うんっ!お兄ちゃんのプレゼントだもん、うれしくないわけないよ!」

 くそぅ、何でエリスはショウさんにこんなになつくんだろう?そうか、イケメンだからか、ルックス重視かコノヤロウ。

「ラーク、何を不機嫌になっているのですか?もうつきましたよ」

 いつの間にか、ラークの目の前には少し大きめの建物が現れていた。

「わーーーーい」

「おい、エリス。そんなにはしゃぐなよ」

 エリスは何が楽しいのか、大はしゃぎで入って行ってしまった。それを追ってラークも中に入っていく。


「おい、ガキども。ここは遊び場じゃねえんだぞ、さっさと帰りな」

 店の奥の扉から二の腕がエリスの胴回りほどもありそうな大男がのっしりと出てきた。エリスは威圧されたのだろう、かわいそうに涙目になっている。

「ダンさん、そんなに邪険にしないでやってください。僕のかわいい弟子たちですから」

「おお!ショウじゃねぇか、最近顔見せねぇから心配してたんだぞ。もっとも、おめぇがくたばるようなことは世界が終るくらいにありえねえとは思うがな」

 そんな風に言いながらがっはっはと笑うゴリラマン。とにかくも、威圧感がなくなって助かった。エリスがかわいそうな感じになってたし。

「今日はこいつらの武具を見つくろってもらいに来たんです。防具はレザーメイル、武器は……どうしましょうね。おそらくラークは両手持ちの大きめの剣、エリスは刺突剣と盾代わりのソードブレイカ―をお願いします。」

「おっ、えらく具体的じゃねえか。もう手合わせしたのか」

「まあ、ちょっと遊んでやる程度にですね」

 遊んでやるって…………分かっていたけど、分かってたけど!!

「おいおい、坊主、そうへこむなよ。こいつが化物じみて強いだけだ」

 どうやらゴリラマンはただのゴリラマンじゃないらしい。優しいゴリラマンだった。






「まずはラーク。この長さでどんな感じですか。」

 防具の採寸をした後、お待ちかねの対面である。剣身が一メートル半はあろうかという大きな剣だ。

「おいおいショウ、それはいくらなんでもムチャだろう。こんなガキじゃあ振り回されちまう。だいたいこういうときはオーソドックスな……」

「案外ちょうどいいみたいです。振ってみても無理はないっすね」

「ね、ダンさん。僕の弟子をなめちゃいけません」

 なんだかショウさんがいたずらっ子のように笑っている。この人はこれをしたかっただけなんじゃなかろうか。

「ラーク、じゃあそれにしましょうか。初めての相棒です。大事にしてくださいね」

「はいっ!」

 やっぱり、うれしいもんだなぁ。腕にかかる確かな重さに胸が躍る

「じゃあ、次はエリス。こっちに来てください」

 わーい、なんて言いながら駆け寄っていく。さっきは泣きかけてたのに、切り替えの早いことだ。まったくうらやましい

 エリスは……レイピアと呼ばれているような剣となんだかギザギザがついてる短剣を渡されていた。

「エリスはこれとこれです。利き手のレイピアは振り回すよりも突くことを目的としてますから、注意してください。あと、利き手じゃない方のソードブレイカ―の方はこのギザギザで相手の刃を受け止める感じです。最初は混乱すると思いますが、頑張ってくださいね」

 エリスの武器はなんだかシュッとしていて、かっこいいなぁ。おしゃれって感じだ。さすが女の子。と思ったらもう振り回してるよ。あぶねぇ、さすがエリス。






 武器を預けたまま、すこし早目のお昼を食べに行った。

「あら、ショウじゃない!最近会いに来てくれないから寂しかったわぁー。恋人をこんなにほったらかしにして何やってたのよぉ」

 なんだか大人のお姉さんが絡んできた。このおねぇさん、色っぽい――――っていだぁ。エリス、足踏んでるっ、なんで俺?

「恋人だなんて、人聞きの悪い。ただの冒険者仲間でしょう」

「あーぁ、つれないわぁん。でも、そんなところも好きよ」

「はい、ありがとうございます」

 初めてみた!ショウさんがうっとうしがってる。すっげえおもしれえ。面白いからもっと見てたいけど、隣のエリスがなんだかオカシイ。

「お姉さん、いったい何なんですか?ショウさんとは何があったんですか?」

 エリスがとうとう切り出したぞ。

「ショウ、何この子たちぃ」

「僕の弟子の、エリスとラークです」

 紹介に合わせてお辞儀するがエリスは視線を離さない。っていうよりメンチを切っている。いつからエリスはチンピラになってしまったのだろうか

「そう。わたしはエルザ。えっとぉ、ショウとはぁ、恋人同士?」

「一緒に依頼をこなしたくらいじゃないですか」

 ショウさん、やっぱりこの人苦手なんだ。

「あら、つれないのね。ところでぇ、ショウ、あなた、弟子をとらないことで有名じゃなかったかしら」

「気が変わった、とでも言っておきましょうか。それにこの子たちは自慢の弟子になってくれると思いますよ」

「えらく買ってるのね。でもぉ、それって相当のプレッシャーよぉ。あの『ぶらっでぃーぷろふぇっさー』が期待しているんだから」

 ―――――ぶらっでぃーぷろふぇっさー?今さっきも聞いたぞ?

「すいませんエルザさん、『ぶらっでぃーぷろふぇっさー』ってなんですか?」

「なぁに?坊や、知らなかったのぉ、ショウのぉ、二つ名よぉ」

「おい、エルザっ――――――はぁ。そうですよ。なんだか僕をそういう風に呼ぶ人もいますね。『血濡れの教授(ブラッディプロフェッサー)』って、あんまり好きじゃないんですけどね」

 苦虫をかみつぶしたような顔でショウは答えた。

「どうして?ショウお兄ちゃん?」

 エリスが聞いている。不機嫌よりも好奇心が勝っているようだ。よし助かった。

「僕も詳しくは知らないんですが――――僕、トマトが好きでしょう?」

「はい、でもそれがどうかしましたか?」

「自家製トマトジュースを作って飲むのも大好きなんですが、作りすぎてしまって、瓶詰めして持って町に出てきたことがあったんです」

「うん、それでどうしたのお兄ちゃん」

「運悪く、路地で強盗にあっている人を見つけたんです。五人組でしたね。で、軽くのしてやったのですが、その時にトマトジュースの瓶が割れて、あたり一面真っ赤っかになってしまったんです。もったいないと思って、手に着いたのをちょっとペロッとやったんですけど、その画がどうやら助けた男の人には悪魔的に映ったみたいですね」

「それで、『血濡れ』ですか。それで、『教授』はどこから?」

「おそらく、手合わせしているときの口調でしょうね。そのうち分かるんじゃないでしょうか」

「なるほど、血濡れといってもトマトじゃあカッコがつかないっすね。」

 そういうと、なんだかショウさんはすこし悲しそうな顔をして、首肯した。なんだったんだろう、あの表情。

「で、ショウは今日はなにしに来たのぉ?」

 エルザさんが空気を変えるためかのように質問をした。このおねえさん、ただめんどくさいだけじゃなかったんだ。空気の読めるめんどくさいお姉さんだった。

「この二人の武具を一通りそろえに先に言っておきますがあなたに会うためではないです」

 信じられないくらい早口で、一息に言い切った。

「残念ねぇ。じゃあ、もう帰るのぉ?」

 エルザさんはからかってるだけなんじゃなかろうか?きっとそうだ。

「いえ、この後はギルドに行ってこの二人を登録した後、この子たちの初陣を」

 ――――――――――――初陣?

「そう、二人とも頑張ってねぇ。死なないようにねぇ」

 このお姉さん、やっぱりなかなかにイジワルな人だった。




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