初めての朝、自己紹介
「ああ、みなさんおはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
ラークとエリスに問いかける。まあ、寝床もないのだ、おそらく難しいところだろうが、一応聞いてみる。ほら、案の定ラーク君苦笑い。それならエリスと一緒に寝ればよかったのに。エリスには僕のベッドを使ってもらった。何を恥ずかしがってんのやら。
「まあ、寝具とかは今日中に用意します、それで許してくださいね」
「用意させる、の間違いじゃねーのか?」
がっはっは、なんて豪快に笑いながら色黒の長身痩躯の男がリビングルームに降りてくる。
「シロはどうしました?」
「いま降りてくる……っと、お出ましだぜ」
言うが早いか、完璧なプロポーションの女性が下りてくる。
「じゃあ、全員揃ったところで自己紹介でもしましょうか」
そう、これから長い付き合いになるのだ。それくらいはすべきだろう。
「まあ、ここはまず僕から。僕の名前はショウ、ショウ=サザールスといいます。一応、ここの家長です。職業は冒険者。ギルドランクは、おいおい分かると思いますよ」
「おいおい、冒険者?農夫の間違いだろ」
なんてクロが突っ込む。余計な御世話だなぁ。
「じゃあ、次はクロ」
少し乱暴に言い放つ
「すねるなよ……ああ、俺はクロウ。ショウはクロって呼んでる。好きに呼んでくれ。ちなみに、人間じゃないぜ」
「えっ?どういう意味っすか?」
君の疑問はもっともだ、ラーク君。何を言っているんだこのイカレ野郎は。なんて思うかもしれないけれど、これが本当だから面倒なんだよなあ。
「クロはドラゴンなのよ、そして、私もね。私はシロナ、ショウはやっぱりシロって呼んでくれてる。まあ、好きに呼んで頂戴、おちびちゃんたち」
「そう、二人とも人化の術で人の形になってるらしいんです。クロは力仕事担当、シロは炊事洗濯担当といった感じです。一応お世話になっているということで、覚えておいてくださいね。では、お二人にも自己紹介をしてもらいましょうか」
クロが「一応って……」なんてつぶやくが知らない。分からない。
「はい、俺はラークって言います。ショウさんの弟子にしてもらいました。精いっぱい頑張るんでよろしくお願いします!」
「わたしはエリスって言います。ラークと同じでショウお兄ちゃんの弟子にしてもらいました。よろしくお願いします」
うーん、エリスは思ったよりも活発な少女だったようだ。昨日はやはり精神的に参っていたのだろうか。
「に、してもお前が弟子をとるとはな、王子や王女ですら断ったお前が。」
「そうよね、しかもショウが『おにいちゃん』だって。エリスちゃん、ショウはそんなに若くないのよ。見かけほどね」
「はいはい、二人とも余計なお世話です。ちなみに、弟子をとるなんて僕も思ってませんでしたよ。それじゃあ、朝食が終わったら、シロはいつも通り、クロはこの手紙をケットのギルドマスターまで届けてください」
「ったく、竜使いが荒いな」
「何を言っているのやら、あなただったらひとっ飛びでしょうが。あと、ラークとエリスは裏の庭に行きましょうか。ついてきてください」
「「はい!」」
「まず、二人には魔力量を知ってもらいます。ここを握ったまま、はなさないでくださいね」
そう言って、二人に棒のようなものを渡す。握った瞬間、棒の先端が光り始めた。
「そのまま聞いてください、これはライトという魔法を強制的に発動させる棒です。握っている限り、魔力を吸い上げて発動させ続けます。これが光らなくなった時、魔力切れってことです。いま時間を計っているので、そのまま頑張ってくださいね」
先にラークのライトが切れ、ほどなくしてエリスも切れた。
「三十七分に四十二分ですか、異常ですね」
心底驚いたようにショウは言った。
「どういうことっすか?」
「初期魔力量っていうのは、修行とか始める前、天性の素質で持ってる魔力の量なんですが、これが多いほど同じ修行をしても魔力量の上限も伸びやすいんです。で、その量が、二人は異常なんです。こんなに多い人を見たことがないです。ラークですら、僕の三倍ですよ。僕は十二分でした」
「やったね、ラーク、お兄ちゃんに勝ってるよっ!」
「そうっすか!やった!」
ある程度多いことは初対面から予想はしていたが、ここまでとは。天才とは本当にいるもんだ。
「ここからの伸びは修行次第ですからね、ちなみに今の僕はライトでは計らないですね。長くなりすぎちゃうんで。三日とか、それくらいは最低でも行きますね」
ちょっと、悔しかったから、ちょっと、むきになってしまった。
「じゃあ、魔力がないとどうにもならないので、畑仕事でもしましょうか、僕はこの子たちに水をやっていますので、二人でここら辺を耕しておいてください。人手が増えたから、畑を広げようと思うんで」
「ショウさん、何を考えてるんだろうね」
「わたしはわかんないけど、ショウお兄ちゃんだもん」
そんな受け答えをしながら、畑を作っている。土を耕して、畝を作る。これがなかなか重労働。
「あのさ、エリス、本当に良かったのか?」
もちろん、ショウに弟子入りしたことである。冒険者の弟子ということは、冒険者になる確率も高くなるわけであるが、エリスはそれで大丈夫なのだろうか。
「うん、よかったんだよ。」
「そう、わかったよ」
なんで。とは聞かなかった。聞けなかったのかも知れない。
「それにしても、トマトが多すぎないか、この畑」
そう、ショウはトマトが大好きなのだ。自家製トマトジュースを仕事に持っていくくらいに大好きなのだ。自分で育てちゃうくらいに大好きなのだ。
「おーい、チビども、メシ出来たぞぉーーー!」
家の方からクロさんが叫ぶ声が聞こえた。
「いこうか、エリス」
まあ、いろいろ考えるのは後にしよう、そうしよう。せめてご飯はおいしく食べたい、生きているのだから。