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勇者と弟子の歩む道  作者: いーもり
21/22

予選、消化試合

っていた。エルランド武道大会、予選の朝である。予選は八試合、代表の座は十六人。予選は三十人ぐらいの選手が一度に闘技場にのせられ、一度に戦う。二人になるまで人数が減ったところで試合終了、というわけだ。実は、気絶したところで試合は止まらないので、この予選が最も怪我しやすいといわれているのだが、それは別の話だろう。

「うわぁ、みなさんやる気満々ですね」

 心底うんざりした様子でショウはつぶやく。

「あんな場所じゃ、それは当り前じゃろう。やる気もないような格好で突っ立っておるのはお主の弟子くらいなものじゃ」

 そう、第一試合にはラークが出るのである。だが、ラークは刃をつぶしたツヴァイハン すがすがしい朝の空気に包まれる闘技場。その中には何人もの力自慢たちがひしめき合ダーを舞台に突き立てて、それによりかかっていた。お世辞にも、覇気に充ち溢れた、とは言えない。

「はっはっは、ショウよ、お主の弟子には期待しておるのだが、なかなかどうして面白い坊主ではないか、この程度の有象無象、取るに足らぬといわんばかりであるな」

 皇帝が機嫌よく話しかけてくる。こういうお祭り騒ぎなのだ、気分が上向きになるのは当然といったところか。まあ、暗殺騒ぎがなければ最高なのだが。

「まあ、確かにそう強そうな人はいませんね、見た目だけなら。ラークは僕の弟子ですよ、そんなに血の気が多く育つわけがないじゃないですか。おっと、始まったようですよ」

 すでに、舞台の上ではどんちゃん騒ぎがはじまっていた。






「きゅうにん、めっ、これで十人目だな」

 ラークは順調にライバルをたたきつぶしていた。ショウくらいとしかこのような試合はしたことがないのだが、ショウのようにいやらしい手も使わないし、身体強化したらカンタンについてこれなくなるような連中だ。てこずるはずもない。

「ちょっといいかい?見たところ君は強そうだ。ここはひとつ手を組まないか?」

 金髪の優男が声をかけてきた。戦闘中なのでそこまでしっかりとは顔を見ることができなかったが、声にはどこか危うげな優しさを感じた。

「まあ、こんなことしててもつまんねぇしな。せいぜい数を減らしてくれ」

 そう言って優男とは反対の方向に走り出す。先ほどまでの獅子奮迅の戦いぶりを見てか、矛先を向けられた男の顔は確かにひきつっていた。ラークは内心謝りながらも優しめに場外にけり飛ばす。ろっ骨が折れた音がした。

 その後、ラークが三人倒したところで、ちょうど試合終了の銅鑼が鳴った。




「遅かったんじゃないの、ラーク?」

 エリスが茶化した様子で語りかけてくる。まあ、この子なりにねぎらってくれているんだよね?

「まあ、しょうがない、剣士はひとりずつつぶしていくしかないじゃん」

 ちょっと疲れた様子で軽く答えた、まあ、負けなかったからよしとしてくれ。

「君、助かったよ。おかげで生き残れた」

 後ろから、今さっきの優男が話しかけてきた。やっぱり、生き残りはこいつらしい。

「いや、あんたは助けなくても生き残っただろう?戦いを見る限り、アンタとやるのが一番骨が折れそうだったが」

 まけそう、とは絶対に言わない。なけなしの剣士のプライドだ。

「まあまあ、僕はマルク、よければ名を教えてくれないかな、明日からのライバルの名前を」

「俺はラーク、こっちはエリス。明日からのライバルだぜ、二人とも」

 エリスもよろしく、と言って笑顔で頭を下げる。

「ああ、エリスもよろしく。それにしてもエリスはまだ試合してないんだろう?それほど強いってことかな」

「もちろん、こいつは半端じゃないぜ」

 にやりと笑いながら言い放った。エリスはもじもじと照れているが、少し違わないか?

「そうかい、なんだか楽しくなれそうだ。ともかく、ベストを尽くそう」

「ああ、当り前だ」

 なんとなく、とても気分のいい奴だ。

「第二試合は……見てない間に終わっちゃったね。第三試合見に行こうか、エリスはどの試合?」

「わたしは第三試合。だからもう行くね、じゃあね、ラーク、マルク」

「怪我しないでよ~」

「相手をけがさせるなよ~」

 これが、エリスを知るものと知らないものの差、です。






 試合開始前に詠唱を始めるのはルール違反らしい。だから、魔法を用意しといて放つのはだめ、そう言うことらしい。だから、普通ステージ上すべてを覆うような規模の魔法は、試合開始後すぐに打てるものじゃない。そう、普通は。

 試合開始の銅鑼が鳴り響く。さらに一拍置いて、エリスを中心に水の壁が現れた。高さにしておよそ七メートル。もはやそれは水の塔といっても過言ではない。

「いけぇ!」

 エリスの、聞き様によってはかわいらしく聞こえる掛け声とともに、水の柱は怒涛となって襲いかかった。三十人弱の人間が、なすすべもなく場外に押し出される様はどこか滑稽さをにじみだしていた。

 試合終了の銅鑼が鳴る。舞台に残るは片手をぶんぶん振って声援にこたえるかわいらしい少女のみだった。




「さすがだね、君のガールフレンドはどうやらなかなか一筋縄じゃいかないようだ」

「そうだろ、あと、ただの幼馴染だ。面倒なこと言うなよ」

 そんなことを話していると、幾分かも疲れた様子を見せないエリスが帰ってきた。

「どう?見直したでしょう?」

「見直したよ、君、すごかったんだね。どうかな?僕と組んでひと稼ぎしないかい」

 軽い調子でマルクが尋ねる。本気ではないだろう、そう、本気ではないだろうけど……

「おい、冗談はほどほどにしろよ」

 ちょっと、いや、ほんのちょっとだけど不機嫌な声になってしまった。

「えへへ、ありがと。でも、悪いけどわたしにはいい師匠や頼りない弟分がいるから」

 言葉どおりに少し嬉しそうな声色でエリスが答えた。その声色まで少し気に入らないような気がして、気分が急降下するラークであった。

「とにかく、明日からはライバルだ。負けることはあり得ないが、とりあえずお互い頑張ろうぜ」

 ふっ、とマルクは気障ったらしい笑いを放った後、

「まあ、そっくりそのまま返したいところだけどね」

 なんて答えた。







『いい試合……とは言い難いですが、ともかく二人とも本選出場おめでとうございます』

 夜、一日の終わりに定期連絡をする旨、昨日取り決めていたため、一日ぶりでもないのだが、ショウの、少し懐かしいと思えるような声が指輪にはまった青い宝石から宿の部屋の中に届いてくる。なんだろう、ろうそくの優しい光も相まって、少しセンチな気分になってしまう、ホームシックならぬショウシックか。

『くだらないことを考えていますね、まあいいですが。そちらの二人は、まあないとは思いますが体に不調などは?』

「ないです、エリス?」

「ないよ」

「よかったです。二人にも働いてもらおうと思っていたので」

 なんと不穏な話だ。聞いただけでも少し怖くなっちゃうじゃないか。

『僕も上から試合を見ていました。魔女の気配を含む者は、案の定何人か見受けられましたね。ほとんどは予選落ちでしたが、二人、本選に出場してしまっています』

「二人とは?」

 先走った質問だが、思わずしてしまったラーク。

『第四試合の、シェリーという女性と、第七試合のマークという男性です。二人ともなかなか地力があるようで。ここから魔女による力でどう補正がかかるか分からないので気をつけてくださいね』

「それって、命の危険があるってこと?」

 いくばくかの不安を込めて、エリスがショウに聞く。

『いえ、あれにとっても目的は皇帝暗殺です。だから望んで失格になるようなまねはしないでしょう、殺したら失格ですからね。僕のときはカールは立場上、事故と通せばお咎めはないだろうと思われますし、僕を殺す機会があるならあれは積極的に狙ってきたのでしょうね』

 穏やかでないことをショウはのたまう。弟子二人は言いようのない緊張感に包まれていた。それをショウは察したのか、ねぎらうように言った。

『まあ、今日はよく頑張りました。明日も試合なのでしょう?今日は休んでください。明日、本選の試合組み合わせのクジ引きもあるのですよね、よい運を、祈っておりますよ』

 そう、一回戦からラーク対エリス、なんてこともありえるのがびっくりだ。それはそれで面白い、なんてショウは言うのだろうが。そう考えるとショウにとってはどんな組み合わせでも「よい運」なのだろうが。

「そうですね、では、お休みなさい」

「おやすみ、お兄ちゃん」

 こうして、少年少女の夜は更けていく。



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