出会いの場所は悲劇の村
王都から、自宅のあるケットまで、およそ徒歩で二日、馬を使えば半日あれば。だからのんびり行こうか。暗くなるまでにつけばいいし。本日も晴天。結局四日も家を空けることになったけど、畑は大丈夫かなぁ。
そんなことを考えていると、中間地点のトール村が見える。焚火でもしているのだろうか、煙が上がって……煙?
いやな予感がする。いや、予感じゃない。明らかにあれは焚火じゃない!
トール、シュメリア王国でも有数の麦の産地。王都とケットの間にあるということで立ちよることも何度かあった。が、まるで地獄のような、そんな光景が広がっていた。錆びた鉄のにおい、なにかが焼けるにおい。戦いのにおい。慣れているはずのにおいでも圧倒的な存在感で迫ってくる。
「…………に、こ……そ………だ。」
なにか話し声が聞こえる。下品な笑い声とともに。反吐が出る。
この村には何度か来たことがある。開けた通りに五人、大柄な男を確認する、えらく楽しそうであるところをみると、おそらく賊の類だろう。見つけた以上、なんとかしないと。
路地を使い、下種どもに見つからないように接近。そして。
「――――――っ!!」
感付かれる前に一人の首を落とす。水音のような音とともに上がるのは下種どもの怒号。
「てめぇ、何をするんだっ!」
我関せずとばかりに一番近くの男に向けて横なぎに切りはらう。鮮血をまきちらしながら数メートル吹き飛び、絶命した。残り三人。
「燃やせ、跡形もなく」
感情の抜け落ちたような声で唱えると、二人の男に向かって火の玉が飛ぶ。着弾した瞬間、炎が全身を覆い、断末魔を残し灰となるまで焼きつくした。
「なっ、何なんだよおまえはっ」
恐怖に顔をひきつらせて運よく生き残っている最後の男が獲物の斧を構える。が、すでに遅かった。目の前まで迫っていたショウの足払いで地面に転がされ、倒れたところ足を剣で強烈に殴られて砕かれた。悲鳴とともに脂汗が流れる。
「なんでお前を生かしているかわかるな?仲間の残りはどこだ」
「いっ、いねえよ」
「嘘をつくとためにならんぞ。残念だ、正直に言ったら生き残れたものを」
「嘘じゃねぇ!!ほんとだ」
「そうか、どうやら本当のことらしい。ありがとう、さようなら」
そういうとゆっくりと剣を振り上げ、恐怖でひきつるその顔に叩き込んだ。
どうやら最後の男が言った通り、あの五人で全員だったらしい。しかし、生存者は皆無か、残念だ。
ゴトッ
「っ!!」
なにかが動く音とともに息をのむような気配がある家の中からした。
…………一応、確認するか。
中をのぞくと、必死の形相で包丁を振りかぶり向かってくる少年と、部屋の隅でうずくまる少女がいた。
「おっとっと」
軽く体をよけさせて、包丁を持つ手をねじり上げてやると簡単に無力化できた、やはり子供か。でも、なにかを感じた。なにか、才能……なのだろうか。
「勇ましいのは結構、ですが、ここを襲った賊はすでに処理しましたよ。安心してください」
「本当かっ!? 村のみんなは?」
「残念ながら。ただ、見ず知らずの人間の言うことをそんなに簡単に信じちゃいけませんよ、嘘をついているかもしれないでしょう?」
「嘘なのか!?」
素直な子だ。
「いえ、本当です。ところで、後ろのお嬢さん、怪我をしているようですが、よろしければ手当をさせていただけませんか」
許可を求める言葉とは裏腹に、半ば強引に治癒魔法によって治してしまう。
「兄ちゃん、魔法使えたのか」
兄ちゃん、という言葉に少し苦笑しながら、
「はい、たしなむ程度にね。ご両親は?」
そう問いかけると、悲しみをたたえたまなざしを部屋の隅に向ける。そこには折り重なった男女の屍がいた。
「すいません、無神経でしたね。これから行くあてがなければ、ケットの孤児院につてがあるのですが、どうしましょう」
「お願い。僕らだけじゃ生きていけない」
どうやら、賢い子のようだ。素直だし。
「じゃあ、今日はここに泊って、明日出発しましょう。今日は村の人を精いっぱい弔いましょう」