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勇者と弟子の歩む道  作者: いーもり
13/22

「un」ususalな護衛任務

「二人とも、ギルドランクはいくつになりました?」

 昨日は月に一回の査定の日。この査定によってギルドランクは上下するので、ある意味冒険者にとっては運命の日である。この日は、冒険者は事あるごとにカードをちらちら確認する。ある異世界においては、似たような行動がデートの待ち合わせ中に、携帯電話なるもので行われているらしいが。カードは魔力的にギルド本部と結びついていて、一括管理されたデータが査定の日に送られてくるのだ。また、指名の依頼なども同様にして送られてくる。

「さっき通知が来ました。Cランクです。案外簡単に上がるものですね。エリスは?」

「わたしも同じだよ~」

「簡単……ですか」

 ショウは少しあきれた様子で呟く。Cランク以上になるためにはそれなりの討伐実績が必要となる。要は命がけの戦闘経験なのだ。それを冒険者になって初めての査定でクリアするのは、並大抵のことではない。

「まあ、いいでしょう。指名で僕あてに護衛依頼が来ているんですけど、一緒に来てみますか?いい経験になるでしょう」

「いいんすか?ぜひお願いします」

「わたしも!」

 二人はすぐに食いついた。だが、よく考えれば分かるはずだ。ギルドランクS、しかもあれだけ名の知れた冒険者に来る依頼が、まともなはずがないことが。

「じゃあ、さっそく出発しましょう。二人ともすぐに準備して、王都に行きましょう。依頼開始地は王都ですよ」





 王都とケットの町のおよそ中間。そこには賊に襲われ地図から消えた村があった。

「ここに来るのは久しぶりですね」

 返事は帰ってこない。

 出会いの地、物語の始まりの地。だが、決して言えない悲しみのしみ込んだ地である。

「ご両親や村の皆さんのお墓参りでもしていきましょうか」

 そうして向かった先には、木の棒を二本、十字に結びつけただけの簡単な墓標が所狭しと並んでいた。

ラークとエリスは、二人で同じ墓標に祈りをささげる。少なくない時が流れ、沈黙が支配する。おもむろにラークが顔を上げると、

「両親には手を合わせました。王都に行くとなると、このあたりで野営する必要があるから、急いで準備しましょう。もう暗くなってしまいます」

 そう言った。

 生まれたときから住んでいた村、その村で「野営」をするといったラーク。決して現実から逃げないその強いまなざしに射抜かれたショウは、また自らの弟子への認識を改めるのであった。



「ラーク、ちょっといいですか?」

 不寝番は、ショウが一晩じゅうで、エリスとラークが前半と後半という形になった。初めてということで、負担は少なくないが、ショウは付き添っていることにした。

「はい、何ですか?」

 眠たさを微塵も感じさせない返しに、ショウは心の内で自らの弟子を褒める。

「今日、ご両親のお墓にだけ手を合わせてましたね?」

 はい。とだけ答える。

「エリスも同じ墓にしか手を合わせなかったんですが、あなた方は兄弟じゃないですよね。どうしてでしょう?」

 ラークは、迷いの色を出しつつも、自らの師匠を信頼していると言わんばかりにはっきり答えた。

――――――エリスは、捨て子なんです。と。



ラークの話を要約するとこうなる。

ケットの村には冒険者であった夫婦がいた。彼らはシュメリア全土を旅していたのだが、ある日、国の南西、フェルマン共和国との国境付近でエリスを拾い、自らの故郷で養おうと決心、そうしてエリスがやってきた。冒険者の夫婦はその後、エリスを知り合いに預けるとすぐさま旅に出てしまい、消息を絶った。その知り合いというのが、ラークの両親らしい。だから、彼女の親代わりが、ラークの両親であったわけだ。

「その冒険者夫妻もまた無責任ですねぇ」

 あきれたようにショウはつぶやく。でも、フェルマンとの国境付近での捨て子とすると、エリスの魔法の才能にも説明はつく。彼女ももしかしたら、完全な人間ではないのかもしれない。

「だから、エリスは俺の親に対して何か遠慮があったんでしょうね。満足に甘えられてなかったと今振り返ると感じます。今のエリス、ショウさんに甘えて、心を許しているのが僕からでも分かります」


 親とともに育てなかったエリス。親を失ったラーク。僕がこの子らの師であり、兄であり、親である。まさか恋人もいないのに。ステップを抜かしすぎだと思う。なんて、自分の考えを茶化さないと、なんだか赤面してしまいそうだ。照れくさいが、でも、悪くない。


まあ、大した問題ではないな。明日は王都。かわいい弟子たちに試験の合格祝いでも買ってあげないと。




「王都かぁ、思ったよりうるさいところだなぁ」

 日はすでに傾いているというのに、衰えることのない人の活気と喧噪が通りを埋め尽くしている。

「宿は、この地図に書いてある通りです。僕は少し野暮用があるので、みなさんは先に行って休んでいてください」

 一番疲れているのはショウのはずなのに、まったくたいしたバイタリティーだ。

「じゃあ、エリス、行こうか。早くちゃんとしたところで眠りたい」

「うん、ラーク。またあとでね、お兄ちゃん」


 さて、プレセントプレゼント。



翌朝、気が付いたらショウさんはもう起きていた。いったいこの人はいつ寝ているのだろう。

「おはようラーク。エリスはまだ寝ているかな。珍しいな、ラークの方が早起きとは」

 失礼なっ。でも、事実だから仕方ない。

「っと、エリス、おはよう」

 ショウさんが何かに気付いたようなそぶりを見せたら、エリスが起きてきた。

「エリス、今日はしっかり起きられたよ」

「ラーク、それ、当り前」

 ばっさりだ。

「ふふっ、おもしろいですね。ところで、二人には贈り物があります。試験の合格祝いですね」

「さっすがショウさん!」

「はいはい。ラークにはこれです」

 渡されたのは、白銀に光る腕輪だった。

「これは……?」

「身体強化の補助効果があります。それをつけているとだいたい強化幅が二割増しですね」

「ありがとうございます!……でも、お高いんでしょう?」

「いいですよ、気にしないでください」

 笑いながらショウさんは答えてくれた。

「エリスにはこれです」

 そう言うと、エリスにはネックレスを渡した。ネックレストップは盾のような形をしている。

「きれい……お兄ちゃん、これは?」

「魔法障壁の自動展開です。弱い魔法なら自動的に防いでくれます。あんまり強いと無理ですが。あと、物理攻撃は対象外ですので過信は禁物ですよ?」

「ありがとう!」

 まるで花が咲くがごとき笑顔のエリス。やっぱりかわいい。


「さて、そんなに依頼主を待たせちゃいけないですね。いきましょうか」





 商人が使うかのような簡単な幌馬車の前に、三人立っていた。全員、ローブを着ていて、遠くからでは詳しい容姿は分からない。

「護衛をさせていただくショウです。このたびはよろしくお願いします。この子たちも護衛です。ランクはまだCですが、腕は保障しますよ」

「ラークです」

「エリスです」

 二人ともきちんと頭を下げる。まるで親のような気持ちで見つめる自分がいて驚きだ。

 それにしてもこの護衛対象、見知った顔が二人いるのだが、もし思った通りの人であれば、初護衛にとっては荷が重いなんてもんじゃない。

「お願いしますね、僕はシャルル」

「わたしはアリエル。よろしく~」

 黒髪かつ碧眼の、よく似た容姿の男女が軽く挨拶をする。フランクな中にもやっぱり気品は隠し切れていない。ああ、名前までおんなじだ。なんて言う偶然。

「妾はミシュリ―じゃ。よしなに頼むぞ」

 そうか、やっぱり隠す気はないんだ。もはやいかにもな口調で自己紹介をする女性。銀の輝きを持つ長い髪、気高いオーラ、強い意志を秘めた鳶色の目。完璧な美女であった。

それにその……でかい。シロもなかなかのものを持っているが、これほどではなかった。

「さっそくですが、出発しましょう。僕もいろいろと聞きたいことがありますが、道すがらにお聞きしましょう。皆さんは馬車の中に。そこでお話を聞きます。ああ、索敵魔法はすでに広げてありますし、僕の弟子たちで護衛の手は足りるでしょう」



「さて、聞きたいことが多すぎて何から聞けばいいのか……そうですよね、王子」

「ははっ、僕のことを覚えていてくれたのかい、光栄だね、『勇者』殿」

 心底楽しそうに黒髪の少年は笑う。その振る舞いは王子という立場を感じさせない。

「ショウさん、何で私たちには教えてくれないのにほかに弟子なんて取ったりしたの!」

「まあ、いろいろとあったんですよ、王女。彼らはもう身寄りがいなくてね」

 黒髪の少女の方は大層おかんむりのようだ。そう、この二人、シュメリア王国の第一王子と第一王女なのだ。

「ところで、そこの美しい女性はどちらさまでしょうかね。僕の記憶が確かなら、銀というのはエルランド皇帝の色だったはずなのですが」

「ふむ、妾はエルランド帝国第一皇女ミシュリー エルランドじゃ、ところで妾もショウに聞きたいことがあるのじゃが」

「まあ、そのあたりは今日の晩御飯を囲みつつお話しましょう。まず、ひとつずつ解決していくべきです。今は、僕が彼らを弟子としている理由をごらんにいれますよ。馬車の前方を見ていてください」

 促されて顔を出すと、前方にはオークが二体ほど食事中だった。生肉をむさぼるその姿にミシュリーは嫌悪感をあらわにする。

 ラーク、エリス。一体ずつでお願いします。そう声をかけると、うなずいて駆け出す。身体強化がかかっているため。まるで矢のようだ。特にラークは輪をかけて速い。

 オークが二人に気付き、唸り声を上げる、大地を震わす音の塊は、近づく者の耳を打ち抜く。

しかし、二人はひるむことなく、進んでいく。まず、ラークが間合いに入る。オークは、武器と呼ぶにも粗末な棒を振り上げ、ラークめがけて打ちすえる。轟音が響くも、あるはずの屍はない。

オークはそれを確認できただろうか?気づけばオークの首が、地面に落ちていた。

もう一体のオークはどうなったのか。おそらくエリスが片づけたのだろうけど、跡形もなくなっていた。

「ね、強いでしょう?」

 そう問いかけるショウの顔は、大層誇らしげだったという。


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