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勇者と弟子の歩む道  作者: いーもり
10/22

もりのくまさん

「ふふっ、参りました。それにしてもこんなに早いとは思いませんでしたよ」

 修行の日々が一カ月を過ぎようかというある日。とうとう僕は二人に一本取られてしまった。こんなに早くとは、思わなかったなぁ。

 まずい、ちょっと悔しくなってきちゃった。大人げないや。


「じゃあ、どのくらい強くなったのか、ちょっと試しにギルドで依頼でも受けてきましょうか?」

「いいっすね。前回みたいなへまはしませんよ!」

「じゃあ、町に出ましょうか」



 今回の依頼は「ワイルドウルフ十頭の討伐、 ケット西の森にて」これって、家から直接いった方が早いのではないか?なんて考えないでもないが、それは置いておく。

「今回の舞台は森の中ということで。どこに注意すればいいですか?ラーク君」

 少しおどけて聞いてみる。少し驚いた感じだが、そう間をあけずに答えてくれた。

「まず、死角が多いから突然の襲来に備える、あと、炎を出す魔法は自粛した方がいい……これくらいですかね?」

「いいですね。あと、毒草や薬草もいっぱいあるので、これらを利用できたら一人前のサバイバルマンですね」

 いやいや、サバイバルマンって……などと呟いているが、特に気にしちゃいけない。

「あと、ラーク、長得物を振り回すなら、少し開けた場所にしましょうね。木が多いとかなり制限されますからね」

 なんだか、依頼のたびにラークの武器は使いにくいって指摘している気がする。まあ、この子ならうまくやるだろうけど。

「さて、お話も終わったところで、お出ましですよ」

 そう声をかけるが、どうやら気づいていないようだ。きょろきょろしている。

「聴覚強化、ですよ」

 教えてあげる。どうやらすでに囲まれていることにやっと気づいたようだ。

「ワイルドウルフの特徴は、組織だった狩りにあります。なかなかに手ごわいので、怪我しないようにしてくださいね。音から推測するに、十三~四匹ですか、おそらくどうってことはないと思います」

「エリス、先手を打つぞ。俺たちの身体能力なら相手が体制を整えるまでにことが終わる」

「わかった。じゃあ、わたしはあっちを片づけるね」

 そう言って、二人はそれぞれ戦闘に移っていった。

 ラークは包囲の一角に飛びこんでいき、持ち前の剣技で崩していく。近くに木があるにもかかわらず、ラークの繊細な技はそれを感じさせることがない。

 エリスは雷の魔法で打ち抜いていく。正確無比なその狙撃は、相手が危機を認識する前にその命を刈り取っていく。

 狼たちとの戦闘は、戦闘と呼ぶはあまりにあっけなく終わった。


「それじゃあ、毛皮と牙をはぎ取りましょうか。結構なお金になるんですよ、これ」

 そう言って、仕留めた獲物からのはぎ取りを始める。苦戦しながらもがんばってきれいにはぎ取ろうとしている二人がほほえましい。それにしても、この二人の成長の早さは異常だと思う。戦闘になると、ラークがリーダーシップを取って、二人の連携を瞬時に組み立てる。エリスはそれを後方から把握、適宜修正を加える。この二人、だてに幼馴染をやってない。


「――――――――っと、まずいですね、大きめのモンスターがもうそこまで来てますね。油断しました。血の匂いで呼んでしまったのでしょうか。どちらにしろ、のんびりし過ぎましたね」

 そうつぶやくと同時に暗がりから出てきた灰色の巨体、五メートルにも届くかというキンググリズリーだった。

「ショウさん、どうしましょう」

 あせったように尋ねてくるラーク。この子たちでも十分かなうだろうけど、師匠としていいところを見せたいものですな。

「僕が片づけましょう。よく見ていてくださいね――――――――――ああ、魔法は使わずに無力化してごらんにいれましょう」

 そう言って取り出したるは小ぶりなナイフ。それでやるんすか!なんてラークが叫んでいるが気にしない、気にしない。

「さあ、森のくまさんはおねんねの時間ですよ」




 僕の師匠は、あんなに小さなナイフであんなにでっかいヤツを倒すようだ。正気の沙汰とは思えない。とうとう狂ったか!

 と、思ったその時、不意にショウさんの背中が消えて、怪物の右方に現れた。そのまま、おもむろにナイフを投げる。刺さったのだが、とうてい致命傷にはなりえない。怪物を怒らせるだけだ。ほら、むきになって襲って…………来ない?

 刺さって数秒ののち、キンググリズリーは地面に倒れ伏した。なにが起こったのか、隣にいるエリスも唖然としているところをみると理解できていなかったらしい。

「説明、して差し上げましょうか?」

 はい、ぜひ!と、二人合わせて声を上げたのだった。


「まず、結論からですが、毒です」

「あのナイフ、毒が塗ってあったの?」

 エリスが問いかける。それだと納得だけども、なんだか拍子抜けだ。

「いえ、塗ってなかったです」

「どういうことですか?」

 思わず聞いてしまった。でも、早く知りたい。その気持ちが今は勝っていた。

「タネはこの木にあります。ここを見てください」

 そう言って示したその木には、樹液の滴っている傷があった。

「この木はキナンの木といって、毒を持っている木なんです。樹液には強力な麻痺効果があります」

「それは分かりましたけど、何の関係があるんですか?」

「さっきはナイフを、この木にかすって傷をつけるような軌道で投げたんです。だから、傷をつけたナイフにはキナンの樹液がつく、それを食らった熊はしびれちゃう。そんなところです」

 なるほど、毒草や薬草に精通していないとできない戦法だなぁ。

「ショウさんって、すごいんだね」

 エリス、同感。

「まあ、使えるものは何でも使おう、これが生き残るための秘密ですよ。さっさと帰りましょう。このクマも無理に殺すことはないですし、依頼は達成ですから」

 この人にはまだ勝てない。そう痛感した。そんな日だった。


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