変化
空間が開き、色が目に届く。
眼の前には城壁が左右に伸びている。
どうしてこんな物を作っているのかしら。人間って不思議だなー。
それに近寄り、そっと触れる。
見た目通り、石でできているようだ。
ちょっと、魔力を込めれば壊れちゃいそう。
そう思い、手に魔力を込めていく。それをふと止める。
ガルが渡した本に“むやみに物を壊してはならない”と書いてあったからだ。
もしそれを思い出せなかったら、立派なこの壁は無残にも崩れ落ちていただろう。
その時、急に視界が暗くなる。
正確には、目元に影ができた影響だ.
「へー…壊さないんだ。おかしな竜人さんだね」
そこには――いや、頭上には蝙蝠の羽を生やしたヘテロクロミアの少女がこちらを見るようにい浮かんでいた。
「竜人?何その種族。私は魔族だよ?」
そう言って、胸のあたりを軽くなでる。そこには、いつも通りの心臓がそこにあると信じて。 しかし、そこには鼓動しないはずの魔核が躍動していた。
今までにない変化だ。だけど、不安感はなく。むしろ、落ち着きが得られる変化だった。
「どうやら、訳ありみたいだね。どう?お姉さんが聞いてあげようか?」
そう言って、先ほどまで浮いていた彼女がストンと、隣に降りてくる。
「うん、お願い」
彼女の提案は受けたが、お姉さんかどうかは疑問だった。
――町に入り、近くのベンチに座る。
ヘテロクロミアの彼女が、空間をなでるように手を払う。
そこを起点とし、空間がゆがむ。絶音結界が張られたのだ。
「どこから言えばいいかな……。えっとね――
……――ってのが、私の過去かな?」
「わーお、思った以上に密度が高かったわ。つまり、その彼女って人に会いたくて旅をしていると」
「うん。でも、ここで魔力が途切れちゃってて……ここから先は適当に探すしかないんだよね」
「白髪の女の子ね。そんな子がいたっけな?」
彼女も心当たりがないようで、手掛かりは見込めそうになさそうだ。
「わからないことは悩んでもしょうがないよね!」
リシュは、顔をがばっと上げ、勢いのまま立つ。
「まずは、自己紹介をしようよ」
彼女は、突然の提案に驚くも、すぐに苦笑いへと変わる。
そして、延ばされた手をつかみ返し、目線の高さを合わせる。
「私は――」
説明しようとしたその時、パリンと高い音と同時に、肌を魔力が突き抜けていく。
直後に、けたたましい鐘の音が町中に響き渡る。
「結界が割れた……この魔力の主は相当な――って、どこに行くの⁉」
リシュを見ると、ものすごい勢いでその魔力の主めがけて駆けていた。
(この魔力、あの子の魔力に近かった。もしかしたら新たな手掛かりになるかも)
町を出て、森に入る。魔力の濃い方へ。
そうして、一段と魔力が濃い場所を見つける。
「これは、ダンジョン?」
「そうみたいね。だけどどうして」
隣を見ると、追いついてきた彼女が立っていた。
「ここに、あなたが言ってる子の手がかりでもあるの」
そう聞かれ、思わずぎょっと彼女を見つめてしまう。
「どうしてわかったの?まさか、読破のスキルでも……」
「ただの感よ。年齢だけはだてに食ってないからね」
そう言うと、彼女はじっとダンジョンの横穴を見る。
「それで、行くの、それともここで引き返す?」
「もちろん行きたいけど、えっと、その……」
リシュは、目線を泳がせながら言いよどむ。
ここで彼女を連れて行ってもいいのか。それが分からなかったのだ。
おどおどしてると、急におでこに衝撃が走る。
「あイタ。もう、急に何するの?」
急なデコピンに、反射的にそう答える。
「それは私のセリフよ。そっちこそ急にぎこちなくなってどうしたのよ。まぁ、あらかた"私を連れてってもいいのかな”ってところでしょうけど」
彼女は、胸に手を当て、自信満々の顔で続ける。
「安心しなさい。私はこれでも強いからね。どんな強敵も私の敵にはならないよ」
リシュは、意外そうに彼女を見る。
なんせ、自分よりもはるかに魔力の少なく見える彼女がそう豪語したのだからだ。
「ぷっ。ふふふ……」
「ちょっと何よ。まさか疑ってる?」
「そういうわけじゃないよ。うん、一緒に行こうね」
今度は、彼女が意外そうな顔を見せる。
こんなにも、あっさり了承するとは思ってもいなかったのだろう。
顔を見合わせ、うなずきあう。
そして、暗闇へと進み始める――
――コツコツと、足音が響き渡る。
「魔物と一切合わないね?魔力濃度も低いし、さっきの波動が嘘みたい」
きょろきょろと周りを見渡すが、何の気配も感じられない。
先ほどから、怖いほどに静かな巣穴に足音が響くのみだった。
「おぉ……すっごく広い」
彼女がそう感嘆を漏らす。
周辺には大きくひび割れた場所が何か所もあり、大きな戦闘があったことを想像させる。
「ここが最後あたりだと思うけど、何か手がかりはあった?」
「あったよ!この空間に少しだけどあの子の魔力があったの!」
リシュは、軽く跳ねながら答える。
「他に手がかりはある?」
「ううん。あれだけだった……でもでも、ここにいたのは確実だよ」
「なら、さっさと攻略しちゃいましょう」
そう言って、先の横穴へと進む。
次第に、端の色が鮮明になっていき、ダンジョンには似つかわしくない扉が現れる。
扉を開けると、あたり一面が真っ白な小部屋にたどり着く。
そこには、濃淡が少なく、どこまでも続いているかのような場所だ。
部屋の中央には台座があり、そこに球体が。コアが浮いていた。
「きれいだな。これが魔物を作っているなんてね……」
そう言うと、彼女はコアに手のひらを当てる。
次第にコアに亀裂が入っていき、崩れ落ちる。
コアは、床に落ちる前に純粋な魔力となって消えてしまった。
「これで終わったの?」
「そのはずだけど、あの魔力の波動は一体……」
思考を巡らそうとした、その時。地面が揺れた。
「まさか、もう崩壊が始まったの?逃げるよ」
その言葉を合図に、二人はダンジョンのの外を目指し走り始める。




