第96話 風巡り会議(後編)
創太の時間感覚にズレがあったため、該当箇所を修正しました。 設定の再確認って大事ですね……!
変更箇所 68話 76話 77話 80話
大きな変更は無いですが、創太の来た時期と年齢を整えています。話に大きなずれはないですが気になったら読み返していただけると嬉しいです
休憩のあと、午後の会議が再開された。
「まずは祭の出店についてだな」
ゲンが腕を組む。
「去年の売上上位はなんだった?総務、集計あるか?」
「はい、総務のなるみです」
資料をめくる音。
「食べ物では、焼き鳥、はしまき、焼きそば。
デザートは、かき氷、わたあめ、フライドポテトです」
「……代わりばえしないな」
誰かがぼそりとつぶやく。
ゲンが流花を見る。
「流花さん、最近は何か新しいものとか、祭で出されているものはあるかい?」
急に振られて、
でも流花は嬉しそうに顔を上げた。
「最近流行っているのは、
フルーツ飴やチュロスですね。
冷やしパイン、チョコバナナ、きゅうりの一本漬けなんかも人気です」
「素材そのままってかんじだな」
「夏向けでいいんじゃないか?」
総務のなるみが静かに言う。
「原価率を考えると、わたあめとかき氷は外せません」
やはり利益は気になるらしい。
流花は少し考えてから言った。
「いっそ、人気の飲食店に出店してもらうのはどうでしょう?」
「それはいいな」
「集まるか?」
「今から商店街に打診しても……」
議論が揺れる。
流花は机に並ぶ資料を見て、逆に問う。
「今、売りたいものは何ですか?」
会議室が少し静まる。
「時期的には、きゅうり、トマト。
鮎の稚魚、ヤマメ、ニジマスもある」
「果物だとスイカ、梨、ブルーベリー、あとはぶどうだな」
流花はすぐに組み立てる。
「魚を丸焼きにして、その場で切り分けて販売するとか。
野菜は冷たいスープ、ガスパチョにしたり。
フルーツは串刺し飴や、カットしてカップ売り。ブルーベリーはかき氷のソースにできます」
「それなら大きな仕込みはいらんな」
「魚の丸焼きは映えるし、祭向きだ」
「かき氷のソースは面白い!他の果物でもできるんじゃないか?」
空気が動く。
なるみが立ち上がる、
「原価計算と農家への打診はこちらでまとめます。屋台の仕様は早めに風守りへ出さなければならないので、関係者こちらにお願いします」
そう言うと何人も立ち上がり、会議室の後ろで話し合いが始まった。
前に残ったのは、研究所と各街の倉庫番たち。
その空気が、少し変わる。
ゲンが、静かに言った。
「残った者に聞きたい。
今までの流花さんの意見、どう思う?」
唐突だった。
流花の背中が強張る。
研究員の一人が言う。
「視点が新しいし。加工の発想が早い。
是非、研究所に迎えたいですね」
「うむ、ワシもそう考えていた」
数人が頷く。
ナギがすぐに口を挟んだ。
「ちょっと待ってください。
流花さんは風受けで働いています。
風受けにも必要な人です」
少し強い声だった。
綺羅が静かに言う。
「それを言うなら、どの街も欲しいわよ」
空気が張る。
創太が流花を見る。
「流花さんは、どうしたい?」
流花は、立ち上がったまま言葉を続ける。
「私は、ここに来てまだ一月ですが、最初、風受けに呼ばれたことに意味がある気がしています」
会議室が静まる。
「今は、風受けのお店で働いています。皆さんとてもよくしてくれるし、居心地もいいんです」
小さく息を吸う。
「申し訳ないのですが、どこかに移ることは、今は考えられません」
一瞬、空気が止まる。
研究所の若手がわずかに肩を落とし、
年配の一人が腕を組み直す。
だが流花は、視線を逸らさなかった。
「でも、外の知識がお役に立てることがあるなら、協力はしたいです。
会議に呼んでいただければ来ますし、研究所や各街で必要なら、月に一度でも」
ざわ、と空気が動く。
創太がゆっくり頷いた。
「それでいい」
ゲンも口を開く。
「風巡りは、食を預かる街だ。
軽い気持ちで人を引き抜くつもりはない」
低く、しかし柔らかい声。
「だが、力は借りる。街同士でな」
研究員の誠治が笑う。
「じゃあ、月一研究会ですね」
「交通費どうする?」
「研究所持ちだな」
小さな笑いが起きる。
張っていた緊張が、ほどけていく。
ナギは、その様子を見ながら胸の奥が静かに熱くなるのを感じていた。
――残る、と言った。
はっきりと。
あいまいにせず。
実紗の声が、ふいによぎる。
“選ばないでいるうちは、誰も選ばれない”
流花は選んだ。
風受けを。
自分の居場所を。
ナギは、無意識に拳を握る。
誇らしい。
でも同時に、怖い。
選ぶということは、いつか失う可能性も引き受けることだ。
流花はゆっくり座る。
膝が、少し震えているのを自分だけが知っている。
怖かった。
でも逃げなかった。
――私は、ここでやる。
その決意は、思ったよりも重く、そしてあたたかかった。
ゲンが締めに入る。
「よし。祭の出店は総務と農家で詰める。
冷凍庫とトロッコは風守りと調整。
研究所は月一で流花さんと連携」
机を軽く叩く。
「風巡りは、止まらん」
その一言に、会議室の全員が頷いた。
あるものを使い切る。
余ったものも、腐らせない。
足りないものは工夫する。
そうやって、この街は動いている。
そして――
風街の胃袋を握っている。
この街が止まれば、全てが止まる。
その覚悟が、静かにそこにあった。
会議が終わり、人が散っていく。
流花は窓の外を見る。
ナギが隣に立つ。
「よく言ったね」
「……震えた」
小さく笑う。
「でも、逃げなかったわよ、私」
流花も笑った。
「うん」
ナギは、少しだけ目を細める。
「風受けを、選んだんだね」
流花は少し考えてから答える。
「うん。でも、本音を言うと、
風巡りもかなり気になる」
素直すぎる。
ナギは苦笑する。
「欲張りだな」
「だって、全部知りたい」
その目は、本気だ。
ナギは思う。
――この子は、きっと街を変える。
でも。
誰の隣に立つのかは、まだ決めていない。
風が、強く吹いた。
会議室の紙が一枚、ひらりとめくれる。
次は、自分がどうするのか。
答えは、まだ出ていない。
選ぶって、恋だけの話じゃないよね。
流花は「どこにいるか」を選んだ回でした。
ナギはまだ選べてないけど。
風巡りは街の胃袋、風受けは街の衣。
それぞれが本気だから、引き抜きも本気。
実紗の言葉も、ちゃんと効いてます。
じわじわね。
次は、動くのは誰でしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございます




