表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/104

第93話 風受け会議(後編)

お昼休憩が終わると、会議の顔ぶれがかなり変わっていた


技術職の方達はかなり減って、若い人や女性が大半を占めているようだ。


「かなり、人の入れ替りがあるんだね」

流花がナギに聞くと

「午後からは、デザインや販売の会議になるから、ちょっと数字も増えるよ」


ナギが資料を整え、口を開いた。


「では後半です。議題は四つ。

①ファッションショー

②和服職人の減少

③アクセサリーショップ新設

④各街の売上状況

数字も含めて、今日は方向を出します」


ざわ、と空気が動く。


「では、まずは今回の祭で開催する、ファッションショーについて。お願いします」


「祭実行委員の実紗(ミサ)です。よろしくお願いします」

30代位のきれいな女性が前に出て、ナギに視線を送る。


「祭りのメインステージを一時間押さえました。ただ“見せる”だけでなく、“売上につなげる”構成にしたいと思っています」

「具体的には、若手が作っている新作を出します。メインターゲットは若者ですが、祭にあわせて、、浴衣や甚平もと思っています。

若手が頷く。

「その場で受注できる形に?」

...

「ええ。即売ではなく予約制。新作は受注、定番はその場引き渡しを考えています。あと、小物類はその場で販売できる数を揃えます」


ナギが資料を示す。

「去年は秋から冬にかけて売上が一番伸びています。単純に単価が高いというのもありますが、年間売上のうち、秋冬の四半期だけで4,800万。その一部をショーで引き上げたいと思っています」


流花が静かに言った。

「物語をつけましょう。作る工程、染めのこだわり、誰が縫ったのか。買う理由を見せる事が売上にも繋がると思うんです」


ナギが頷く。

「“買う”じゃなく“応援する”に近い形で、設営や会場デザインなどは最終日に報告だから、まとめて提出お願いしますね」


実紗は小声でナギに言う

「後で、時間貰いたいけど、いいかしら?」

ナギも小声で

「じゃあ、夜に」


流花は、その様子に少しだけざわついてる自分がいる事に気づいた。


資料が一枚めくられる。

「次の課題ですが、和服専属職人の人数が、五年前までは十二人。今は七人。若手は二人のみとなっています」

静まり返る。


「理由は?」と誰かが言う。

「手間と時間です。一反仕上げるのに、洋服の三倍かかるという点と、単価が高いということも要因だとは思います」

「そもそも、和服を着る人が減ってきている。ということも上げられます

重い現実。

年配の女性職人が口を開く。

「和服は儲けじゃない。伝統です」

若手が言い返す。

「でも、続かなければ消えます」

流花が口を開く

「ショーで和服も出してみませんか?

外の世界でも和服を着る人は減っていますが、一定数の需要はあります。

また、新しい素材で作られた和服は若者にも人気が出てきていますよ」

「新しい着物?」

「はい、ジーンズ生地やレース生地の着物や浴衣、ワンピースタイプの着物なんてものもありますし」

「そういうの、少し教えていただきたいわ」


流花は

「もちろん、私の知ってることなら、お教えできると思います。後で話しましょう」

若手のデザイナーさんらしき人と

会議後に合う約束をした。


「では、次にアクセサリーショップの新店舗についてお願いします」

かわいらしい女性が立ち上がる

「小物デザイナーの麻理奈(マリナ)です」


「布の端材、糸くず、染料残り。廃棄が年間で売上の3%分出ています」


「金額で言って貰えますか?」

「約480万相当になるかとおもいます」

ざわつく。

「それを再加工し、アクセサリーや小物として販売しようと思っています。単価は低いですが回転率が高いです。風読みと、学校のある風綴りに出店を考えています」


ナギが補足する。

「各街売上比率は

現在風受け25%、風読み20%、風守り15%、風巡り15%、風綴り25%。

風綴りは単価は低いが購買層は厚いと思っています」


「小物なら動く、か」

「はい。学校がある街だからこそ、小物で遊ぶ余白があると思っています」


「リサイクル品というよりも、布で作ったアクセサリーが流行になれば勝ちと、思ってますので」

かわいらしい顔をして、結構やり手なんだな


ナギが深く息を吸う。

「次に少し、数字の話になります。

年間総売上は約1.6億。

春が5,600万、夏が3,200万、秋が4,800万、冬が2,400万」


「春が強いな」


「入学制服、工場作業着更新です。制服は年約1,500万規模になります」


誇りの色が混じる。

「店舗は各街5~10、平均7店舗。全体で約35店。一店舗あたり年600万強ってところですね」


「多いか少ないか」

「食えるが、余裕はない程度か」


沈黙。

流花が言う。

「冬が弱いなら、秋の終わりに1度」

「在庫処分か?」

「いえ、布を売るんです。仕立て前の布や毛糸なんかを、自分で縫う層も取り込む」

職人たちがざわつく。

「素人に縫わせるのか」


「縫いたい人はいると思います。学校で、基礎は習うので器用な人は繕い物するでしょう?その延長で縫いたい人や編み物したい人っていると思うんです」


ナギが静かに続ける。

「材料を売るのか、それはしてこなかったな」

年配が言う。

「守るとは、止めることじゃない」

陽介の言葉と同じ響きが落ちる。


「工場制服が増えています。

風巡りで新工場が稼働予定ですので。

作業着需要は増えると思います」

「縫製ライン足りるか?」

「電動ミシン導入で歩留まり改善見込み」

年配が低く言う。

「技術は残せよ、進化は構わんが」

「残します。基準があるからこそ、個性が映える」

流花の言葉が残る。


ナギがまとめる。

「午後の会議結果をまとめますね

ショーは、実紗を中心に詳細報告で。

和服は流花さんとデザインの練り直しお願いします。

アクセサリー店は風読みと風綴りに試験出店、と材料の店は今後検討します」

深呼吸。

「風受けは、作る街です。ですが、売れる街にもなります」

静かな拍手が、いくつか落ちた。


会議室を出ると、夕方の光が柔らかい。


実紗が後ろから声をかけてくる。

「ナギ。ファッションショーの件だけど、この後少し詰めない?」

その呼び方が、自然すぎた。

敬語でもない。 遠慮もない。


「会議室は閉めちゃうから、カフェでもいいし、旅館の部屋でもいいけど」


ナギは資料を抱えたまま、少しだけ考える。

「……カフェにしようか」

「相変わらず即断しないわね」

実紗は肩をすくめた。

「昔からそうなんだから」


その一言に、流花の耳が小さく反応する。

――昔から?


「数字まとめるのは早いのにね」

実紗はくすっと笑った。

「追い込まれないと決めないの、

ほんっとに昔から変わらないわね」


ナギは苦笑する。

「……余計なお世話」

その空気は、軽い。 でも、長い時間を知っている人の距離だ。


実紗が流花を見る。

「流花さんは、和服の人たちと約束あったわよね?」

きちんと敬語。 柔らかい。 けれど視線はまっすぐだ。


向こうで、手を振る女性たちがいる。

「あ、はい。少し打ち合わせが」

「頑張って。あなたの話、結構響いてたから」


さらっと言う。 評価も、遠慮なく。


流花は少しだけ頷いた。

「ありがとうございます」


ナギが言う。

「じゃあ、後で合流できたら」

「できたら、ね」

実紗が横から言う。

「ナギは昔から、話し込むと時間忘れるから」


まただ。 また“昔から”。

流花は、気づかないふりをする。

三人が一瞬だけ並ぶ。


実紗は流花より少しだけ背が高い。 姿勢が良く、視線が強い。 迷いのない人の立ち方だ。


「じゃあ行くわよ、ナギ」

「ああ」

並んで歩き出す二人。


歩幅が自然に合う。 振り返らない。

流花の胸に、ふわりと風が立つ。


――なんだろう、これ。

嫉妬、とは少し違う。 でも、静かにざわつく。


あの距離。 あの呼び方。 あの“昔から”。


流花は、和服の職人たちの方へ歩き出す。


風受けの街は、夕暮れに染まっていく。


柔らかい布のように。 でも、その下では、誰にも見えない糸が、静かに張られていた。


風受けは、作る街であり、売る街でもある。

技術と数字と、誇りと現実。 前に進むための会議は、やっぱり熱いですね。

そして実紗登場。 強くて優秀で、ナギの“昔から知ってる顔”。

流花はまだ気づいていないけれど、 風受けの会議は、仕事だけじゃなく 関係性も動かし始めています。

さて、この風はどこへ流れるでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ