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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第91話 風守り会議

風守りの会議室は、昨日とは空気が違った。


長い机の上には、色とりどりの資料ではなく、図面と寸法表が並んでいる。


木材の種類、在庫数、加工予定表。

鉛筆の跡が残る紙。

どこか、工房の延長のような匂いがした。


「じゃあ、始めるぞ」

陽介が立ち上がる。

声は穏やかだが、迷いがない。


「今日の議題は五つ。風受けと風巡りに新しくできる工場の建設の進捗、住宅の件、祭の屋台フレーム、学校設備、冷凍トロッコの改良だ」

流花は背筋を伸ばした。

“守る”街の会議。

派手さはないが、生活の土台を決める場所だ。


まずは工場の進捗の件だが

各街の倉庫番、お願いできるか?


風巡りのゲンさんとジュンさんが大きく図面を広げた

「風巡りに新しくできました、スパイスと調味料の再加工工場です」

流花は思わず身を乗り出す。

「向こうから来る袋のままでは粒が大きすぎるので、さらに粉砕して、こちら規格に袋詰めし直すための工場だ」

「細かい施工の話は、ワシらじゃ難しいので図面を見ながら、説明してもらえるか?

職人が立ち上がる

「はじめまして、工場施工責任者の(みのる)です。今までは小規模作業場だったが、需要が増えて追いつかなくなっているとのことでしたので、大きな粉砕機のある工場を作りました」

ちょっと難しい機械の説明が続いた。

ジュンが続ける

「先月から、試験稼働していますが、将来的には粉砕機を一台増設予定です」

「騒音は?」

年配の職人が聞く。

「元々池に近い住宅地からはなれた場所ですが、遮音壁を設置していますし、周辺には影響が出ない設計です」

流花がぽつりとつぶやく。


「それなら、料理の幅、もっと広がりますね」

陽介がうなずく。

「文明は、味から進むかもしれんな」

小さく笑いが起きる。


「じゃあ次は風受けだな。水車小屋と機織工場の責任者は?」

「はい、私です。(たもつ)です。よろしくお願いします」

「まずは、川の水を利用して直径60センチ程の水車を回し、その動力で長さ20センチ、幅10センチの大型の機織機を4台動かすことになっています」

「現在、組合とも連携して設計が進んでいる状況です」

流花は、モクレン達の仕事だと気付き、ナギを見ると小さく頷いてくれた。

「大きな仕事ですので、職人と、設計と連携していいものを作ろうと思ってますので、次回、進捗はご報告します!」


そこで、年配の職人が低く言った。

「工場が増えると、街の景色も変わる」

「煙も、音も、荷も増える」

部屋が静かになる。

陽介はゆっくり言う。

「進むなら、整えて進む」

「無理はせん」


ナギも補足する。

「倉庫番としては、流通量が増える分、レール整備も必要になりますが、この工場ができることで風受けの綿花農家も張り切って作付け面積を増やしています」

風受けも、確実に前に進んでいる実感が持てる。


「よしよし、では、住宅地問題だが」

「今の風街は人口が約三千。若い世帯が増えてる感じだな。この一年で、新築希望が十八件。修繕依頼が三十二件来ている」

数字が読み上げられる。

「正直、職人が足りてない」

年配の職人が腕を組む。

「外向けの“風守シリーズ”、売れとるんか?」

陽介は静かに言った。

「売れている。だが、内の注文も増えている」


立ち上がったのは陽子だった

「外貨が増えれば、材料も仕入れられる。もっと外に出すべきだと思うんだけど」

「まずは街だろ」

年配が即座に返す。

「住む場所が整ってこその商いだ」

意見がぶつかる。

流花は、ふと気づく。

これは家具の話ではない。

この街をどこへ向かわせるかの話だ。

陽介がゆっくり口を開いた。

「外に出す量は増やす。ただし、比率は変えんぞ。外に出すのは一割でいい」

「職人を育て、全体の製造量を増やす」

陽子は一瞬黙り、それから頷いた。

「……分かりました。私たちの作品がどう評価されているかは知りたいので、、後で詳しく教えてもらえますか?」

完全な納得ではない。

あの素敵な家具、陽子さん達の作品だったんだ。流花の楽しみがまた、ひとつ増えた。


陽介さんは再び立上がり新しい図面を広げた。

「次は、祭の宿題だ。各街一ブース。再利用可能な基本骨組みを作る」

「分解式にする。保管は倉庫番と相談だな」

陽介が綺羅を見る。


綺羅は書類を確認しながら、話し出した。

「分解式だと今後の計画が立てやすくて助かります。保管場所は確保できますが、骨組みに関して、湿気対策をお願いできますでしょうか?ブースはコンクリートに直接立てることになると思いますので」


「高さはどうする?」

職人の一人が言う。

流花が図面を見ながら手を挙げた。

「調理や火を使うなら、もう少し作業台を上げた方が安全かと思います。床からの距離も出ますので湿気対策にもなるかと」

数人が頷く。

「じゃあ、基本高さは三段階調整式にしよう」

陽介が即決する。

「装飾は各街持ち。照明は共用だが、移動式投光器は8台で足りるか?」

「コストは?」

「去年より一割抑える」

色んなことが次々と決まっていく。


「学校長から、机と椅子の追加依頼が来ているんだが」資料が回る。

「在籍三百人。一学年三十人前後。古いものや壊れているものも多くなってるのでいくつか新調したいとのことだ」

「雨の日の運動場問題もあったな」

「屋内簡易スペースを作れないか」


陽介は考えながら発言する。

「いかんせん学校の敷地はメリーゴーランドの上にできてる。先代はなぜそこを選んだんだかわからんが、今よりかなり人数が少なかった頃だ。今の人数になったのなら新しく建て直すことも考えんといかん。既存倉庫の一部を改装する案もでてはいるんだが」

「だが、木材が足りん」

若手が口を開く。

「ミラーハウスの素材は活用できないですかね?既存の倉庫に何があるかも確認してから考えませんか?」


そのとき、流花が言った。

「客員講師の話、ありましたよね」

「各街の職人さんが授業に入るなら、とりあえず、椅子や机を作ったり、修理する工程を見せる授業もできませんか?」

一瞬、静まる。

「……子どもに作らせるのか?」

「いえ、見せるだけでも。興味をもって職人になる子も増えるんじゃないかと」

陽介は、ゆっくり笑った。


「悪くない」

「学校は街で育てる場所だ」

「風守りが何を守っているか、見せるのも仕事だな」

机と椅子の追加は優先順位一位に決まった。


「じゃあ最後になるが、冷凍トロッコの改装の話だな。肉の流通が増えてきているから、今の氷保存だけでは限界が近い」


若手が図面を出す。

「二重壁構造にして、冷気保持時間を伸ばす案です」

「重量は?」

「増えます」

ナギが言う。

「レールの耐荷重は大丈夫ですが、牽引に力が必要になります」

「冷蔵庫の技術を応用してみるのはどうだ?」

「動力が足らないだろう」

技術的な話合いが続く。


流花が口を挟む。

「解凍が進むと味が落ちます」

「一定温度を保てるなら、料理の幅も広がりますので、ぜひ食材を各街に届ける時にも活用して欲しいと思います」


陽介は腕を組む。

「試作品を一台作ってみてくれ」

「成功すれば順次切り替える」

技術は、生活に直結する。


会議の終盤。

若手が、ぽつりと言った。

「俺は、もっと外に出したい」

年配が睨む。

「だが、外で評価されるのは誇りだ」

「閉じているだけでは衰える」

陽介はしばらく黙り、言った。

「守るとは、止まることではない」

「だが、壊して進むことでもない」

「焦るな。だが、止まるな」

静かに、火種は残った。


会議室を出ると、夕日が差していた。

「濃かったですね……」

流花が息を吐く。

「風守りは、派手じゃないからね」

ナギが苦笑する。

「でも、一番大事なところ決めてる感じしました」

「うん」

少し歩いてから、ナギが言う。

「陽介さん、流花ちゃんの意見、褒めてたよ」

「え、ほんと?」

「うん。“外の視点は助かる”って」

流花は少し照れた。

「でも、私、何も分かってないのに」

「分かってないから言えることもある」

歩幅が揃う。

「ナギは?」

「何が?」

「守るの、好き?」

ナギは少し考えた。

「……好き、かな」

「壊れないように、回るように、調整するのが」

流花は笑った。

「大人だね」

「またそれ?」

「うん。でもそんなのナギの方が好きかも」

ナギの足がわずかに止まる。

「……それは」

言葉が見つからない。

夕日が赤い。

守る街は、静かに明日の準備をしていた。

そして、誰も気づかない小さな火種が、

ゆっくりと燻り始めていた。

風守りは、地味だけど一番熱い。

図面の上で決まることが、街の未来になる。

守るって、止まることじゃない。

少しずつ、ちゃんと進むこと。

次は風受け。

いよいよ“風受け”が動きます。

ここまで読んでいただきありがとうございます

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