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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第89話 風街の朝

朝の風街は、静かに動き出す。


遠くで水車が回る音。

トロッコのレールをきしませる、控えめな金属音。

まだ眠りの名残がある空気の中で、街はちゃんと朝を迎えていた。


流花は、ゆっくりと目を覚ました。

「……ん」

少し喉が乾いていて、頭がほんのり重い。

昨日、久しぶりにお酒を飲んだせいだとすぐ分かる。


――楽しかったな。

女子会。


それから、帰り道。

「……」

流花は、布団の中で小さく身じろぎする。


ナギと並んで歩いた夜道。

距離が近くて、風が気持ちよくて。


「好きだなぁ」

自分が言った言葉を、ちゃんと覚えている。

「……街のこと、って言ったよね?」

小さく呟いて、ひとりで頷く。


酔ってはいたけれど、嘘じゃない。

この街が、好き。

ここにいる人たちが、好き。

――それだけ。

たぶん。


身支度をして、食堂へ向かう


ーーーそのころーーー


正直に言うと、

ほとんど眠れなかった。

目を閉じると、すぐ思い出す。


夜道。

肩が触れた感触。

酔った声。

――好きだなぁ。


街の話だって、分かってる。

分かってるのに、胸がざわついたまま、朝になった。

「……仕事」


小さく呟いて、顔を洗う。

冷たい水が、少しだけ助けてくれた。


会議。

今日は会議だ。

考えることは山ほどある。

書類も、判断も、責任も。

それなのに流花の顔が、声が頭から離れない。




焼いたパンの香りと、温かいスープの匂い。「おはよー」

軽く声をかけると、少し遅れて返事が返る。


「……おはよう」


机の端に座っていて、書類を脇に寄せながらこちらを見る。

でも、目が合うのは一瞬だけ。

「昨日、ありがとうね。すっごく楽しかった!」


流花がいつも通りに言うと、ナギは一拍置いてから頷いた。


「……それは、よかった」

声は穏やかだけど、どこか距離がある。


昨日より、ほんの少しだけ。


「ナギ、今日は風綴りの会議だよね」

「うん。だから色々準備してて」


「そっか。大変だね」

流花は向かいに座り、スープを口に運ぶ。

ナギは書類に目を落としたまま、ちらりと様子をうかがう。


――近い。

でも、昨夜ほどじゃない。


ナギは、内心で息を整えていた。


目を閉じるたびに、あの夜が蘇る。

「好きだなぁ」


街のことだと、分かっている。

分かっているのに、胸が騒ぐ。


――今日は仕事だ。

自分にそう言い聞かせる。


朝食を終えると、街の人たちが少しずつ会議室へ向かい始めた。


書類を抱えた人。

真剣な顔で話し合う声。


廊下を歩きながら、流花は隣のナギを見る。

「今日も、がんばろうね」

「……うん」

短い返事。


会議室の扉の前で、一瞬だけ立ち止まる。


昨夜の距離は、ここには持ち込めない。

でも――

消えたわけじゃない。


扉が開き、ざわめきが広がる。


風が、すっと吹き抜けた。

風街の朝は、もう完全に動き出していた。

さてさて。

風街は恋の余韻を置き去りにして、しっかりお仕事モードです。

朝が来たら、会議が始まる。

感情は胸の奥にしまって、判断と段取りと責任の時間。……とはいえ、

全部きれいに切り替えられるほど人間は単純じゃないので。

それでは、会議室へ。


ここまで読んでいただきありがとうございます

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