第83話 新しいお誘い
「じゃあ、皆さん、また」
「流花ちゃんも、また今度ね」
「車のことは任せといて。もし見つけたら、
うちの倉庫に移しておくよ」
「あ……よろしくお願いします」
挨拶をして、
蒲田さんは大きな扉の向こうへ出ていった。
ちらりと見えた外の空は、
こちらの世界の空と、同じ色をしていた。
「さて わしらも解散しようか」
「明日からの部門会議の資料、まとめないといかんしな」
二人がそう言いながら動き出す。
ちょうどエレベーターから、
他の人たちも降りてきていた。
そのとき――
ぱたぱたと駆け寄ってくる足音。
「流花ちゃーーん!」
風綴りの街の、綺羅と希妃だった。
「お話、終わった?」
「はい、終わりましたよ」
「今夜ね、ミズキと一緒に飲み会するんだけど」
「流花ちゃんも、来ない?」
「えっ……行ってもいいんですか?」
「もちろん!」
「会議のときは、だいたい女同士で集まるのよ 情報交換もあるし、男ども抜きで気楽なやつ」
「だから、ぜひぜひー!」
楽しそうだ。
二人と仲良くなりたかったから、素直に嬉しい。
「行きます!」
「すごく楽しみです!」
そのとき、ナギも降りてきた。
「ナギー、今夜ね」
「綺羅さんたちから、ご飯誘われたの」
「行ってくればいいよ」
「僕は、ツカサたちと食べるから」
「じゃあ、行きますー!」
希妃が振り返って言う。
「噴水前に五時ね」
「ミズキさんと……もう一人来るかも」
「じゃあ、また後でー!」
そう言って、二人は行ってしまった。
ナギがこちらを見る。
「僕は一旦、宿に戻るけど」
「流花ちゃんは、どうする?」
ナギの腕には、書類がたくさん抱えられている。
「荷物、半分持つよ」
「一緒に戻ろう」
旅館への帰り道は、賑やかだった。
部門会議に出るらしい人たちの話し声。
書類を抱えて、小走りで通り過ぎる人たち。
ナギが、静かな声で話し出す。
「今日は、どうだった?」
「いろいろ驚いたでしょ」
「はい……本当に、いろいろ」
「僕も驚いたよ」
「蒲田さんと、知り合いだったんだね」
「そうなんです」
「私の住んでたところから、ここまで車で……」
「あ、向こうの乗り物なんですけど」
「四時間くらいかかるんです」
それでも行きたくて、
と店の話を流花は楽しそうに続けた。
ナギは聞きながら、少しだけ間を置いて言った。
「……ふぅん」
「そんなに、仲良くしてたんだね」
どこか、寂しそうな顔。
流花は、慌てて話題を変えた。
「さっきの会議で出た、部門会議なんですけど どういうものなんですか?」
「明日から、一日ずつ」
「会議室を使って、各街の細かい打ち合わせをするんだ」
「明日は、風綴りの会議」
「僕たち倉庫番は、全部出なきゃいけないけど流花ちゃんは、どうする?」
「私も……全部、出てみたいです」
「お役に立てることもあるかもしれないし」
「何より、出てみたいです」
「ご一緒してもいいですか?」
ナギは、嬉しそうに笑った。
「もちろん」
「頼もうと思ってたから、そう言ってもらえて嬉しいよ」
宿に着くと、
創太さんとばったり会った。
帰り支度をしているようだ。
「帰られるんですか?」
「風巡りの会議は最終日だからな」
「一旦帰って、また来るよ」
「四日後に、また会おう」
そう言って、小走りで駅へ向かっていった。
「私、一度部屋に戻って」
「着替えてから、ご飯行ってきますね」
「わかった楽しんでおいで」
「僕もたぶん、ツカサたちと飲んでるから」
「帰り……一緒になるといいね」
そう言って、ナギは部屋へ戻っていった。
流花は一人、部屋で足を伸ばす。
――いろんなことが、あったな。
「あ、家族に手紙……」
紙もないし、
明日でいいかな。
でも――
何て書こう。
この場所のことを伏せたまま書く、
その難しさを、
初めてはっきりと感じていた。
大きな出来事のあとには、
こういう何気ない時間がやってきます。
誘われて、迷って、少し嬉しくて。
明日の予定が決まるだけで、
この場所が「暮らし」になっていく。
流花にとっても、
ここが少しずつ“居場所”になり始めた回でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます




