第82話 外から来るもの
家具置き場のすぐ横には、
トロッコが何台も並んでいた。
木と金属で作られた頑丈な作りで、
側面には、それぞれ街の名前が書かれている。
――風巡り。
――風受け。
――風守り。
――風綴り。
蒲田さんは、
台車で運んできた荷物をひとつずつ確認しながら、手際よくトロッコに分類して入れていく。
「このまま置いておくとね」
そう言って、
大きな袋を軽く叩く。
「みんなには、運べないくらい大きいから」
「こうやって、トロッコに分けるんだよ」
隣で見ていた陽介さんが、補足する。
「このトロッコはな」
「電車に連結できるようになっとる」
「各街まで、そのまま運べるんじゃ」
なるほど、と流花はうなずいた。
トロッコの中には、
砂糖、塩、スパイス。
袋詰めされた食材がいくつも積まれていく。
その横には、
布や紙、
トイレットペーパーやティッシュもあった。
「紙は……こちらでは作らないんですね」
流花がそう聞くと、
陽介さんが肩をすくめる。
「作ろうとはしたらしいがな」
「持ってきてもらう方が、早いし、きれいじゃ、リサイクル用紙はこっちで作っとるんじゃよ。新聞はそれで作られておる!
「向こうから来た紙は、もちろんそのままじゃ使えんから、風守りの工場に運ばれてな。こちらの大きさに切って、包装し直すんだよ」
今度は、創太さんが品物を指差しながら教えてくれる。
「あのスパイスや調味料はな」
「工場で、さらに細かくして、小分けにするんじゃ。塩も砂糖も、スパイス類も向こうではそのまま使っていたが、こちらの人たちにはその粒さえ大きいからな」
「最近、新しい工場もできた」
少し誇らしげだ。
コーヒー、紅茶の袋が目に入った。流花が指差して聞く
「この辺も細かくするんですか?」
創太さんが答える
「コーヒーはね、各家庭にコーヒーをすりつぶす道具がある。この世界ではコーヒーは1粒づつ計り売りが基本だな」
創太さんが少し困ったように言う。
「インスタントコーヒーを仕入れるか悩んでるんだ。ワシはコーヒーが好きだから向こうでも豆でいれたもんしか飲まんかったから、これしか教えてない。でもいれるのが面倒だという声もある。ワシと流花ちゃんしかインスタントコーヒーの存在は知らんじゃろ?流花ちゃんはどう思う?」
流花はちょっと考えてから、
「それは、、秘密にしましょう」
「この淹れ方がこの世界にあってるような気がします」
だろ?と創太さんが笑う
そして、大きな肉の塊が、
別のトロッコに載せられていく。
「それは、冷凍トロッコじゃ」
「ちゃんとしとるじゃろ?」
荷物を載せ終えたトロッコは、
ひとつ、またひとつとレールの上を走り出す。
静かな音を立てながら、
風街の中へと吸い込まれていく。
ここは、確かに風街の中。
けれど――
入場門の、外側。
蒲田さんは、
この先へは入れないらしい。
そして、
中の人たちも、ここには来られない。
ここから先、
外へも出られない。
そこには、
はっきりと「境界線」だと分かる、
大きな扉があった。
閉じているわけでも、
厳重なわけでもない。
それでも――
越えてはいけない場所だと、
自然と分かる。
外から来るもの。
中で使われるもの。
その切れ目が、
ここには、はっきりとあった。
外から来るものは、
そのまま使われるわけじゃありません。
小さくして、分けて、手をかけて。
この街の大きさに合わせて、
ちゃんと「暮らし」に変えられていきます。
便利さを選ばない、という選択。
それもまた、この街らしさなのかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございます




