第81話 風守りの仕事
降ろしてもらった場所には、
思わず足を止めてしまうほど、たくさんの家具が並んでいた。
私たちから見れば、れっきとした家具。
けれど蒲田さんからすれば、
手のひらに収まるミニチュア作品だ。
背の低い棚が整然と並び、
床には木目の板がきれいに敷かれている。
ここが“置き場”であると同時に、
見せるための場所でもあるのだと、すぐに分かった。
使いやすそうなシステムキッチンには、
細かなタイルが一枚一枚貼られていて、
指で触れると、わずかな凹凸が伝わる。
蛇口をひねれば水が出る仕様になっているし
排水管もつながっていて、
ちゃんと「流れる」ように作られている。
棚やタンスも、見た目だけじゃない。
扉や引き出しは、引っかかることなく滑らかに動き、使われることを前提に作られているのが分かる。
昭和っぽい色合いと形がどれも可愛くて、
気づけば、インテリアショップを歩いているみたいに、心が少し浮き立っていた。
「この辺りはな」
陽介さんが、家具の間を指差しながら言う。
「毎回、街で使った感想を聞いて、少しずつ改良しとるんじゃ」
「引き出しが固いとか、棚の高さが合わんとか、そういう細かい声が、次の仕事になる」
確かに、
ここに並ぶ家具は、
“完成品”というより、
“積み重ねの結果”のように見えた。
ひとつひとつ眺めていると、
蒲田さんが少し誇らしげに口を開いた。
「こちらの作品は、全部うちの工房で作っていることにしているんですが、実は“風守シリーズ”として出しているんです」
少し照れたように笑う。
「こちらのことは、もちろん絶対秘密なんですが……それでも、少しでも名前を残したくて」
そう言ってから、さらりと続けた。
「海外のオークションでは、
十万円以上で売れることもあるんですよ」
「すごいですよね」
「そんなに高く売れとるんなら」
陽介さんが、嬉しそうに言う。
「こっちにも、もう少し材料を回してもらわんとなぁ」
「鉄も木も、まだまだ使い道がある。家具に貼るための革も、もう少しいろんな色が欲しい」
二人の会話は、まだまだ続いている。
家具の列を眺めていると、
ひとつ、自然と目を引くものがあった。
薄いグリーンと白でまとめられた鏡台。
丸い鏡に、二段の引き出し。
小さな椅子は、腰掛けるとふわりと沈み、
思った以上に座り心地がいい。
思わず、声が漏れた。
「……すごく可愛い」
「こういうのが置ける部屋に、住みたいなあ」
陽介さんが、振り返ってにやっと笑う。
「そのシリーズはな、最近、若い職人たちが作っとるんじゃ」
「昔の型をそのまま真似するんじゃなくて、
今の暮らしに合うように、少しずつ変えとる」
「そいつらの家具を置いとる店もあるから、今度見においで。まだ若いから、値段も手頃でな。おすすめじゃ」
蒲田さんも、うなずいた。
「こういうのは人気なので、
次回もこのシリーズ、お願いしたいですね」
そう言われて、
陽介さんは少しだけ背筋を伸ばした。
気づけば、
風街には、
また行きたい場所と、
小さな約束が増えていた。
新しい家具を見ていると、気持ちが上がっちゃいますよね!
使えること、暮らしに馴染むこと。
その一つひとつが、ちゃんと嬉しい。
この街での生活が、
少しだけ、具体的になってきた気がします。
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