第80話 実感する
時間軸、整えました
蒲田さんの手のひらの上で、
小さく揺れながら――
創太さんが、ふっと口を開いた。
「どうじゃ?」
「……実感するだろ?」
「はい」
流花は、正直にうなずいた。
創太さんは、少しだけ笑って続ける。
「でもな 確かに、我らは人間だよ」
「ただ、小さくなった。それだけじゃ」
「心配せんでええ」
その言葉を聞いて、流花は思った。
――たぶん、創太さんは。
それを言うために、ついてきてくれたんだ。
「創太さん、同い年だったのは本当に驚きました。でも、ここで45年の時を過ごしてきたんですよね」
「そうだな。こんな姿になったのを親や友達が見たら驚くだろう?」
流花はなにも言えなかった。
しばらくして、蒲田さんが静かに言った。
「流花さん……本当に驚きました」
「父が言っていたんです お店に来た人が、小さくなって、向こうにいたことがあるって」
「えっ?前にも私のような人がいたんですか?」
「はい、ここができてから100年位、こちら時間でですが、その頃は、何人かいたらしいです。だからもしかしたら、そういうこともあるかもしれないとは思っていましたが……」
「実際に見ると、本当に」
言葉を探すように、少し間を置く。
「……驚きました」
そして、流花の方を見る。
「流花さんは、大丈夫ですか?」
「不自由していませんか?」
「はい」
流花は、すぐに答えた。
「皆さん、優しくしてくれますし」
「住むところも、仕事もあるので」
「大丈夫です」
少しだけ、声を落として続ける。
「ただ……」
「家族には、連絡した方がいいのかなって」
「元気なことだけでも、伝えた方がいいのかなと」
「そうだね」
蒲田さんが、うなずく。
「まだ、流花さんがいなくなって、二、三日しか経ってないので警察が動く前に……」
「手紙だけでも、出しておく?」
「はい」
「じゃあ、すぐ書きます」
「今じゃなくていいよ」
蒲田さんは、やさしく言った。
「僕が明日、連絡ポストに取りに来るから」
「そこに、一緒に入れておいて」
「会議が終わるときで大丈夫だから」
――ここでも、時間のずれを感じる。
流花は、ふと思って聞いた。
「創太さんは……ご家族に、お手紙書いてないんですか?」
創太さんは、少し考えてから答えた。
「一度だけな、子供が生まれたときに」
「元気にしとるから、心配するなって」
それだけ言って、
また、前を向いた。
一緒に乗っている陽介さんが、にっと笑って言った。
「流花ちゃん、うちの風守りの街にはな、職人がようけおって賑やかなんじゃ。鉄も木も、道も家も、毎日どこかで音がしよる」
「寂しいと思う暇もないぞ。たまには遊びに来い、歓迎するよ」
そう言ってから、少しだけ声を落とす。
「……外の世界から、一人でここに来るってのは、そういう覚悟がいることなんじゃろうな」
「さぁ、着きましたよ」
空気を変えるように言うと
蒲田さんが私たちを降ろしてくれた。
すごくゆっくりと大事なものを扱うように
ここでは本当に
みんなが優しい
流花の心には温かい風が吹いた。
小さくなったことを理解するより、先に体で知る、そんな時間です。
流花の周りには、説明をしない優しさが少しずつ集まっています。
それが、この街らしさでもあります。
次からは、いよいよ「生活」が動き出します。




