第76話 文明を進める
時間軸のずれを整えました。
流花は、少しだけ息を吸ってから話し出した。
「皆さんに、お聞きしたいことがあります」
部屋の空気が、わずかに引き締まる。
「創太さんがこちらに来られてから、45年。向こうの世界ではおよそ4年の間に、結構技術は進歩しています」
言葉を選びながら、続ける。
「私の感覚だと……ここは、昭和の時代から、時間が止まったような感じがするんです」
誰かが、黙ってうなずいた。
「このまま、ゆっくり文明を発達させていくのか。それとも、もっと今の向こうの世界に近づけたいのか。その考えを、皆さんにお伺いしたいです」
しばらくの沈黙のあと、創太さんが身を乗り出した。
「それって……ワシが来た時より、さらに進んでるってことか?」
その目は、真剣だった。
「AIは?」
「あります」
「人の代わり?」
「かなりの部分で」
創太は小さく息を吐いた。
「……4年で、そんなに変わるか」
しばらく天井を見つめてから、ぽつりと続けた。
「わしが来たときにも、今の流花さんと同じように、昭和から時間が止まっているように感じたよ」
「作ろうとはしたんだ。でも、ワシにもここのみんなにもその技術が、わからなかった」
「調べる術もないしな」
創太さんは、流花を見た。
「流花さんは、作れるのかい?」
流花は、思わず笑って首を振る。
「私には、そういう技術はありませんよ。でも……たくさん、使ってきました」
そのとき、蒲田さんが口を開いた。
「流花ちゃん。僕も、そのことについては、ずっと考えてはいたんだ」
視線を落とし、言葉を選ぶように続ける。
「でも、向こうの様子は、聞くだけでしか分からない。話していいものなのか、ずっと迷っていた」
流花は、ゆっくりとうなずいた。
「もしかしたら、私がここに来た理由は、そういうところにあるのかな、と思ったんです」
部屋の全員を見渡して、問いかける。
「皆さんは、どう思われますか?」
頭領が、静かに口を開いた。
「創太から、テレビや電話の話は聞いていたよ。この街にも、はじまりの人たちの遺物として、テレビやラジオ、電話機は残っている」
少し間を置いて、続ける。
「街の端には、電話ボックスというものもあるらしい。創太が見つけて、教えてくれた」
創太さんが、うなずく。
「でもね」
頭領は、言葉を区切った。
「電波というものが、こちらにはない」
その瞬間、流花は蒲田さんを見た。
「蒲田さん。スマホは……通じるんですか?」
創太が焦った顔をする。
「流花ちゃん、それは、、、」
蒲田さんは、一瞬だけ迷ったあと、テーブルの下に手を伸ばした。
何かを操作する、小さな音。
「……ここでは、通じるみたいだ」
そう言って、視線を上げる。
「でも、これを見せていいものなのか。僕には、判断がつかない」
流花は、全員を見つめた。
その声は、静かだった。
「今、蒲田さんが手に持っているものを、皆さんに見せたら。文明は、一気に進むと思います」
息をのむ気配が、部屋に広がる。
「どうされますか?」
創太さんが、震える声で言った。
「それを出したらいけない気がしていたんだ。もちろん、ワシももっていたよ。でも、今まで誰にも言ったことはない」
別の誰かが言う。
「文明が進むのは、いいことなんじゃないか」
「でも、それで問題が増えたりはしないのか」
「まずは、自分たちが、どこにいるのかを知りたい」
意見が、ぽつりぽつりと重なっていく。
流花は、静かに言った。
「それを見れば、今まで分からなかった仕組みや、考え方のヒントは、たくさん見つかると思います」
少しだけ、言葉を置く。
「でも私は……この街の、ゆっくりした感じが、とても好きです」
創太も言う
「そう、それなんだ、スマホは全てを見せすぎるような気がしないか?」
「それと同時に、もう少しだけ、便利になればとも思ってしまう」
流花は、正直に続けた。
「絶対に口外しない、という約束があるなら……見てみてもいいのかもしれません」
そして、結んだ。
「文明の進め方は、ここにいる皆さんで決める。そういう形にするのは、どうでしょうか」
頭領は、しばらく考え込んだあと、うなずいた。
「本当に、そんなものがあるのなら……」
「今まで研究して、挫折してきたことが、進められるかもしれない」
「ここの技術だけでは、これ以上の発展が難しいのも、事実だ」
流花は、創太さんを見つめる
「作り方がわからなかったもの、知りたくないですか?」
「それは、知りたい」
「知りたい、、が、しかし」
頭領は、蒲田さんを見つめる。
そして、ゆっくりとみんなの顔を見る。
「見てから、みんなで考えよう」
その言葉を受けて、蒲田さんは、深く息を吸った。
指先が、わずかに震えている。
ゆっくりと、ポケットの中に手を入れ、
黒い板状のものを取り出そうとする。
流花は、その動きを、ただ黙って見つめていた。
文明を進める、という言葉は簡単ですが、
進め方を選ぶのはとても難しい。
この回では、答えを出すことよりも、
「見るかどうか」を決めるところまでを描きました。ここのみんなにスマホはどう映るのか
次は、その先です。
ここまで読んでいただきありがとうございます




