第74話 この土地のこと
「ここが、どこなのかは……もう、お分かりいただけたと思います」
蒲田はそう言って、ゆっくりと視線を巡らせた。
「そして、“外の一族”と呼ばれる僕が、どうして皆さんの存在を秘密にしているのかも」
少しだけ、言葉を選ぶように間を置く。
「皆さんが作っているものを、僕の店の作品として外で販売している以上、この場所のことは、絶対に口にできません」
それは責任、というよりも――
覚悟のように聞こえた。
「……というより」 蒲田は苦笑して、続ける。
「そもそも、外からは“見えない”し、“入れない”んですよ」
「入れない?」
思わず、流花が聞き返す。
「蒲田さんは、ここに来てますよね?」
「ええ。でも、それは――ここまで、です」
そう言って、蒲田は立ち上がった。
「ちょっと、窓を開けますね。外を見れば、分かります」
会議室の壁一面にある、すりガラスの大きな窓。 それが、静かに開かれる。
流花は、息を呑んだ。
そこに広がっているはずの風街の景色は――
なかった。
見えるのは、 草に覆われた広い空き地と、 低い木々が密集する、静かな森。
ところどころに、 割れたコンクリートの名残のようなものが、 地面から顔を出しているだけ。
「……森」
思わず、そう呟く。
「正確には」 蒲田は言った。
「森に飲み込まれた、更地、ですね」
「外から見たら、ここはそう見えます」
「古い遊園地があった痕跡も、もうほとんど分からない」
「入場門だけが、ぽつんと残っている。そんな場所です」
「……じゃあ」 流花は、胸の奥がざわつくのを感じながら続ける。
「外の人には、この街は……」
「存在しない」 蒲田は、静かに言い切った。
「僕が入れるのも、この会議室までです。この先は、入れないし、見ることもできない」
一度、試したことがある、と蒲田は言った。
「中の人に頼んで、写真を撮ってもらおうとしたことがあるんです」
「でも……写っていなかった」
「建物も、人も、街も」
ただ、空白だけが残った。
「外からは、認識できない、だから、偶然見つかることもない」
それでも――
蒲田は、ほんの一瞬だけ表情を曇らせた。
「それでも、怖かったんです」
「もし誰かが、この土地を“買ってしまったら”どうなるんだろうって」
開発。 転売。 あるいは、ただの好奇心。
「だから、父がこの一帯を購入しました」
「誰も、立ち入れないように、誰も、壊せないように」
守ってくれているんだ
「今は、僕がそれを引き継いでいます。だから、僕は“外の一族”なんです」
流花は、言葉を失ったまま、森を見つめていた。
見えないけれど、確かに存在する街。
そして、守られてきた場所。
守る側にも、戻れない選択があったということ。
この土地は、偶然残ったわけじゃない。
蒲田さんが、ずっと、
ここに“生きている世界”があると信じ続けた結果なのだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、
「この街がどうして守られているのか」
それが少しだけ見えた回でした。
まだ全部が明かされたわけじゃないけれど、
風街が偶然そこにある場所じゃないことは、
伝わってきたんじゃないかなと思います。
次は、この土地を“守る側”の話。
そして、流花がその話をどう受け止めるのか。
引き続き、ゆっくりお付き合いください




