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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第72話 もう一人の一族(2)

「お疲れさまです。今回も、よろしくお願いします」

そう言って、彼は隣の部屋の扉を開けた。

鍵の音がして、ほどなくして戻ってくる。


その腕に抱えられていたのは——椅子だった。

私たちでは、とても持ち上げられない大きさの椅子。

この世界のものではない、元の大きさの椅子。


床に置かれ、彼が腰を下ろすと、

不思議なことに、視線の高さが揃った。


「あ……」

流花は、思わず声を漏らす。

だから、テーブルを上げたのだ。

元の高さのままでは、彼と目を合わせて話すことができない。


ここではいつも、

こちらが“上がる”ことで、会話を成立させている。

「彼が、“もう一人の一族”です」

頭領が、静かに告げた。

「蒲田 悠也かまた・ゆうやさん。外の世界に住み、この街のすぐそばで暮らし」

「そして——この土地の、持ち主でもある」


名前を聞いても、すぐには結びつかない。

けれど。

(……知ってる)

理由は説明できない。

でも、確信だけが、胸の奥で静かに形を持った。


「蒲田さん」 頭領が続ける。

「今日は、そちらから流れてきた新しい人がいるんだ」

「挨拶をしてもらってもいいかな?」

その言葉に、蒲田が流花の方を見る。


——目が合った。

次の瞬間。

ガタッ、と大きな音がして、

彼は勢いよく立ち上がっていた。


「……君は」

一拍置いて、確かめるように続く。


「三日ほど前に、うちに来てくれた」

「えっと……」

そして。

「椎葉 流花さん!」

久しぶりにフルネームで呼ばれたことに、流花は固まった。


「……え?」

驚いたのは、流花だけじゃない。

「知り合いなの?」

ナギが思わず声を上げる。

周囲も、ざわりと空気を揺らす。


そのとき、流花の中で、点が線になる。

「……はい」

流花は、少し照れたように言った。

「私、趣味でドールハウスを集めていて」

「一ヶ月前……ここに来る前に、阿蘇の山奥のお店に行きました」

蒲田の目が、少しだけ和らぐ。

「そのときの——」

流花は、確かめるように続ける。


「ミニチュア家具を作っていた職人さん、

ですよね」

沈黙。


そして蒲田は、一瞬だけ言葉を失ったあと、

困ったように、でもどこか腑に落ちたように苦笑した。


「ああ、、、やっぱり、そうか」

そう言いながら、流花をじっと見る。


「名前、覚えてましたよ」

「ドールハウス見てるとき、妙に真剣だったから“趣味”って感じじゃなかった」

流花は少し驚いて目を瞬かせる。


「正直」 蒲田は続ける。

「あのときから、引っかかってはいたんです」 「この人、どこか“こっち側”の目をしてるなって」

「こっち側……?」

「細かいものを」

「“かわいい”じゃなくて、“暮らし”として見てる人の目」

「そういう人、あんまりいない」


ナギが、思わず口を挟む。

「……それで、名前まで?」


「ええ」 蒲田は短く頷いた。

「忘れないタイプのお客でしたから」


それを聞いて、 今度は流花の方が、胸の奥がざわっとする。

(あのときは、ただ楽しかっただけなのに)

蒲田は、もう一度だけ流花を見て、静かに言った。


「でも、まさか、こんな形で“再会”するとは思いませんでした」

その言葉には、 偶然を否定するような、妙な重みがあった。

会議室に、微妙な空気が落ちる。

偶然にしては、出来すぎている。

でも、必然と呼ぶには、まだ早い。


頭領が、静かに言った。

「——こうして、繋がることもある」

「外と、こちらは、完全に切れているわけじゃないんだ」

流花は、椅子に座ったまま、胸に手を当てた。


ドールハウス。

小さな家具。

小さな世界への、憧れ。

それが、

こんな形で“こちら側”と繋がるなんて。


会議は、まだ続く。

でも流花は、はっきりと感じていた。

——自分は、

ただ流れてきただけの存在じゃない。

ようやく、

「外とこちらをつなぐ人」が姿を現しました。

偶然のようで、偶然じゃない再会。

流花がここに流れ着いた理由も、

次は、

彼が“知っている世界”の話へ。

もう少しだけ、

一緒に深いところまで潜っていきましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございます

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