第71話 もう1人の一族
流花は、はじまりの人たちの話を聞いたまま、しばらく言葉を失っていた。
遊園地だった場所。
残った人たち。
ここで生きることを選んだ決断。
胸の奥で、まだ整理しきれない感情が静かに渦を巻いている。
そして、もうひとつ。
どうしても引っかかっている疑問があった。
「……では、外との交流っていうのは?」
流花は、少しだけ声を整えて続けた。
「ここにいることを知っている人が、外の世界にもいる、ということですよね。
でも……私、そういう話を聞いたことがなくて」
頭領は、どこか楽しそうに目を細めた。
「その話はね」
「もう一人の一族から、直接聞いた方がいい」
その言葉に、空気がわずかに変わる。
「その前に、少し準備をしよう」
「休憩にしようか」
すっかり冷めてしまったお茶を飲み干し、
ちょうどお弁当も食べ終えた頃、
テーブルが静かに片付けられていく。
言葉にしなくても、考えていることは顔に出ていたのかもしれない。
ナギが、隣から小さく声をかけてきた。
「大丈夫?」
「無理しなくていいから」
「うん。驚いてはいるけど……大丈夫」
自分でも不思議なくらい、声は落ち着いていた。
そのときだった。
「では、皆さん」 風読みのミズキが、はっきりとした声で言った。
「上げますね」
――上げる?
そう思った瞬間、
流花たちが座っていたテーブルと椅子が、床ごとわずかに揺れた。
カタ、カタ、と控えめな音を立てながら、
視界がゆっくりと持ち上がっていく。
「……え」
驚く間もなく、
部屋の奥の扉が開いた。
「お疲れさまです」
そう言いながら入ってきた人物を見た瞬間、
流花の胸が、ほんのわずかに跳ねる。
――あれ。
理由は、わからない。
はっきりと思い出せる記憶もない。
けれど。
木の匂いをまとったような空気。
視線を向けられたときの、あの距離感。
(……知ってる、気がする)
名前も、立場も、まだ何も聞いていない。
それなのに、心のどこかが小さく反応していた。
ナギが、その人物を見る目を、ほんの一瞬だけ変えた。
敬意と、少しの緊張が混ざったような表情。
頭領が、穏やかに告げる。
「彼が」
「外と、こちらを繋いでいる
もうひとりの一族だ」
その言葉を聞きながらも、
流花の意識は、別のところに向いていた。
――阿蘇の、あの山道。
――静かな工房。
まだ確かめるには早すぎる。
「では、ここから会議を再開しよう」
「外と関わる話だ」
その人物は、静かに席に着いた。
——この人が、“もう一人の一族”。
外と、この街を、
高さの違うまま繋いできた人だと。
会議室の空気が、少しだけ変わる。
上に上がったのはちゃんと話すために、同じ高さに立つため。
この世界の思想がいちばん出るところかもしれません。
次は、いよいよ
「もう一人の一族」の役割に入れます。
ここまで読んでいただきありがとうございます




