第70話 倉庫番一族会議(4)
「この街のはじまりについて、だね」
頭領は、ゆっくりと皆を見回してから続けた。
「そう。ここにいる者は、全員それを知っているよ」
「けれど……“なぜ”そうなったのかは、誰にもわからない」
一瞬、間が落ちる。
「それでも、知りたいかな?」
流花は、小さく息を吸ってから頷いた。
「はい。教えてください」
「うん。じゃあ、話そう」
頭領は、少し遠くを見るような目になった。
「ここが、かつて“遊園地”だったことには、もう気づいているね」
誰も口を挟まない。
「外の世界で言えば、今から四十五年ほど前」 「昭和の高度成長期の終わり頃だ」
流花の胸が、わずかにざわつく。
「地方に、たくさんの遊園地が作られた時代があった。人は集まり、笑い、夢を見る場所としてね」
頭領は、淡々と語る。
「けれど、時代が進んでいった。人はより大きな街へ、より便利な場所へ流れていった」
「この遊園地も、例外じゃなかったんだ。よりスリルのあるアトラクションへ、もっと大きな遊具へ。子供のための小さな遊園地ではなくテーマパークへ時代が移っていった」
「来園者は減り、維持は難しくなり
やがて、閉じられることになった」
静かな声だった。
「閉館の日の次の日、ここにはね。最後まで残った人たちがいたんだ」
流花は、息を呑んだ。
「遊園地を惜しむように集まってお別れ会をしていたのは、スタッフ、その家族たち。この場所で働き、暮らし、思い出を積み重ねてきた人たちだ」
「その日、彼らは帰らなかった」
「正確に言えば……帰れなかったのかもしれない」
会議室の空気が、少しだけ重くなる。
「気がついた時には」
「世界が、変わっていた」
「建物は残り、道はある。遊園地はそのままだ」
「けれど、人の大きさだけが違っていた」
「そして、時間の流れが変わったんだ」
頭領は、そこで一度、言葉を切った。
「理由は、わからない。事故なのか、奇跡なのか」
「それとも、誰かの願いだったのか」
「ただ一つ確かなのは」
「彼らは、この場所で“生きる”ことを選んだということだ」
流花の胸に、じんわりと熱が広がる。
「逃げなかったし、絶望もしなかった」
「ただここを、ただの廃墟にしなかった」
「それからは、遊園地の全部を使って
自分達が食べること、着ること、住むことを
一つずつ作り直した」
「そうして、この街は始まった」
「それがはじまりの一族と言われる人達だ」
「そして、この街を風街と名付けた」
「街を5つに分け、みんなで協力して、そして歴史を綴ってきた。」
頭領は、穏やかに微笑んだ。
「だからね、ここは“閉じた世界”じゃない」
「誰かが守り続けた、選択の結果なんだ」
流花は、言葉を失ったまま、ただ聞いていた。
自分が迷い込んだ場所が、
偶然ではなく、積み重ねの上にある世界だと知って。
そして、まだ聞いていない問いが、胸の奥で静かに形を作っていく。
あとがき
ついに、この街の「はじまり」に触れました。
理由はまだわからない。
でも、どうやって作られてきたのかその答えは
わかってきたはずです。
次は、外との交流について
謎を解いていこうと思います




