第69話 倉庫番一族会議(3)
「これまで、こちらに流れてきた人たちはね」
頭領が、場の空気を和らげるように、穏やかな声で話し始めた。
「専門の職業についていた人ばかりなんだ」
作家、漫画家。
船大工や宮大工。
役者、音楽家。
デザイナー、染色の職人。
ひとつひとつ挙げられる名前に、流花は息を呑む。
「それぞれが、この街にはなかった技術を教えてくれたんだよ。二年ほどで帰った人もいれば、技術を伝えきるまで十年近くいた人もいる」
「そのすべては、資料として残されているよ。後で案内しよう」
この街は、偶然に頼って生き延びてきたわけじゃない。
受け取り、残し、育ててきたのだ。
「そして今、現代の食文化を知っている流花さんが、料理人としてこちらに来た」
頭領は、ゆっくりと流花を見る。
「それはね。この街の“意思”が、次は食を豊かにしたいと望んでいるのではないか」
「我々は、そう考えている」
胸の奥が、静かに震えた。
「もちろん、強制はしないよ」
「宮大工だった人が風綴りに住んでいた例もあるし、住む場所や役割は、本人が決めるものだ」
ジュンが、穏やかに頷く。
「この街の人々はね」
「大きな変化は求めていないんだ、ほんの少し、暮らしが楽になったり、ほんの少し、楽しいことが増えたら、それでいいんだ」
わかりました、と流花は答えた。
この街が、四百八十年かけて外の技術を受け入れ、育ててきた理由。
そして、自分がここに来た意味。
すべてが、少しずつ一本の線になり始めていた。
流花は、深く息を吸ってから、ずっと胸にあった疑問を口にした。
「……そもそも、ここは」
「どうして出来たんですか?」
「この場所が生まれた理由を、皆さんは、ご存知なんですよね?」
その瞬間、
場の空気が、はっきりと変わった。
誰も言葉を発さず、
ただ、流花を見つめていた。
いよいよ、核心の扉の前まで来ました。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次からは、
「この世界がどう始まったのか」
「なぜ小さくなったのか」
少しずつ、でも確実に触れていきます。
続きも、どうぞお付き合いください。




