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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第65話 全体会議が始まる

司会の女性が一歩前に出て、会議室を見渡した。


「それでは、これより――

夏の全体会議を始めます」

その言葉に、会議室の空気がきゅっと引き締まる。

年に四回行われる会議の中でも、夏は特に重要だと聞いていた。

収穫。

消費。

修繕。

次の季節へ向けた準備。

街の“体力”が、ここで一度、測られる。

流花は背筋を伸ばし、周囲を見回した。


すでに席はほとんど埋まっている。

年配の人もいれば、ナギと同じくらいの年齢に見える人もいる。

服装もまちまちで、作業着に近い人もいれば、きちんと仕立てられた服の人もいた。


――それぞれの街、それぞれの役割。


「まずは、各街の現状報告から行います」

司会の声が、淡々と進行を告げる。

最初に立ち上がったのは風巡りの街の代表だった。

「風巡りの街の報告です」

「今年の春から初夏にかけての収穫は、おおむね例年通りです」

穀物、豆類、油用作物。

水車を使った粉挽きの稼働状況。

保存食の在庫。

「一部の畑で土の痩せが見られますが、来季に向けて休耕と改良を進めています」

「食品研究の分野ですが」

代表の男性が、資料を軽く整えながら話し始めた。

「今年は主に甘味の研究に力を入れています」

甘味。

流花の頭にはカフェのナッツクリームがよぎる

「果実由来の糖分や、保存性の高い加工法については、詳しくは明日からの部門別会議でご報告します」

周囲から、納得したような小さな頷きが返ってきた。


次に立ったのは、風守りの街の代表。

建築資材の消耗。

鉄材の再利用率。

老朽化した建造物の補修計画。

「今期は特に、ゴーカート区画周辺の補強に力を入れました、風守りの街の要なので」

風守りの人たちは、全体的に口数が少ない。

「鉄材の再利用についてですが」

低く落ち着いた声が会議室に響く。

「北側のジェットコースター資材を、今後本格的に使用していく予定です」

ジェットコースター。

昨日、電車の窓から見えた、あの斜めに走る鉄骨を思い出す。

「人口の増加に伴い、建築資材が現状では不足し始めています」

「ですが、再利用可能な資材は、まだ十分に残っていますので心配は無用です」

――“増えている”。

街は、静かに、確実に、大きくなっている。

けれど、話の端々から、積み重ねてきた時間の重みが伝わってくる。


続いて、風綴りの街。

図書館の新設。

楽器や印刷設備の整備。

祭事に向けた準備状況。

「新しく開館した図書館について、少し補足を」

図書館。流花が昨日、新聞で見た見出しだ。

「蔵書は順調に増えています。作家さん、漫画家さんも増えてますので

また、夏祭りに向けた連絡事項としては明日以降の部門会議で詳細をお話ししますが、電車の稼働などもまた、追って連絡致します」

「音楽団の活動状況は良好です」

「劇場の改築については、風守りの街と連携を取りながら進めたいと考えています」

文化は、一つの街だけでは完結しない。

それが、当たり前のように語られている。

「文化は、余裕がなければ育ちません」

そう語った代表の言葉に、何人かが静かに頷いた。


そして――

「次に、風受けの街から」

ナギの隣に座っていた年配の女性が立ち上がる。

流花が先ほど挨拶した、乙葉だった。

衣料生産の進捗。

水車を使った紡績工場の建設について。

新素材の試験結果。

「今年は特に、耐久性と着心地の両立を重視しています」

服は、生活そのもの。

それを支える街の報告は、どこか人の体温に近かった。

「また、今回の夏祭りでは」

「ファッションショーを行う予定です」

会場が、少しだけざわめいた。

「各街の協力を得て、

実用性と表現の両立を目指します」

流花は、思わず自分の服の裾を見た。

沙羅が仕立ててくれた、この服。

あれも、この街の“仕事”の一部なのだ。


一通りの報告が終わり、司会が締めくくる。

報告が一通り終わると、会議室に小さなざわめきが戻る。


「以上が、各街の現状です」

司会がまとめる。

「大きな問題はありませんが――

夏を越えるための調整は、ここからが本番になります」

流花は、静かに息を吐いた。


――思っていたより、ずっと“普通”だ。

誰かが支配しているわけでも、

特別な力が振るわれているわけでもない。

ただ、

小さな世界を、続けていくための話し合い。

でも――

それだけで終わらないことも、

もう、わかっている。

このあとに来る議題が、

きっと、この会議の“本当の顔”なのだ。


「では、次の議題に参ります」


その言葉と同時に、

流花の胸の奥を、ひやりとした緊張が走った。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

街ごとの報告が続く中で、

「この世界は、ちゃんと回っているんだ」と

流花と一緒に感じてもらえていたら嬉しいです。

そして——

次の議題へ。

流花が感じた、あの一瞬の緊張。

それが何を意味するのか、

次のお話で描いていきます。

もう少し、お付き合いください。

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