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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第62話 会議の朝

朝は、思っていたよりも静かだった。


障子の向こうが、うっすらと明るい。

庭の木々が揺れて、風の音がする。


流花は布団の中で目を開けたまま、しばらく動けずにいた。


――帰りたいかね?

昨夜の創太さんの言葉が、まだ胸の奥に沈んでいる。

強い言い方だった。

でも、拒まれたわけじゃない。

「選べ」と言われただけだ。


中庭に出ると、朝露の残る庭が静かに広がっていた。

風読みの街は、人が集まる場所なのに、朝は驚くほど穏やかだ。


「……早いね」

振り向くと、ナギが立っていた。


もう身支度は済んでいて、いつもより少しきちんとして見える。


「ナギも早い」

「目、覚めちゃって」

並んで庭を見る。

肩が触れそうで、でも触れない距離。


「……昨日のこと」

ナギが、視線を庭に向けたまま言う。


「怖かった?」

少しだけ、声が低い。

「ううん。びっくりはしたけど……」

言葉を探してから、続ける。

「ちゃんと考えなさいって、言われた気がした」


「……うん」

ナギは小さく息を吐いた。


「創太さん、ああ見えて優しいんだ。

だから余計に、きついことも言う」


「ナギは、どう思ってるの?」

思い切って聞いた瞬間、空気が一拍止まる。


「……正直?」

「うん」

ナギは一度、流花を見て、すぐに視線を逸らした。


「まだ決めなくていいと思う。

それに……」

言葉を切る。

「ここで無理に答え出したら、後悔しそうだから」

「後悔?」

「流花が、ね」


その言い方が、妙に優しくて、胸がぎゅっとなる。


「ナギは……?」

「俺は」

一瞬、迷うように唇を噛んでから。


「流花が、ちゃんと笑っていられるなら、それでいい」

ずるい。

そんな言い方。


「……それ、反則」

思わずそう言うと、ナギが驚いた顔をして、すぐに困ったように笑った。


「ごめん」

「謝らなくていいけど」

沈黙。

でも、さっきより近い。

「ねぇ」

流花が小さく呼ぶ。


「今日、もし私が混乱したら」

「うん」

「そばにいてくれる?」


ナギは即答だった。

「当たり前だろ」


今度は、ちゃんと流花を見る。

「離れないよ」

その一言で、胸の奥がじんわり熱くなる。


まだ何も決まっていない。

帰るか、残るかも。

それなのに。


――この人のそばにいたい、と思ってしまう。

流花はそっと息を吸った。


「……朝ごはん、行こっか」

「うん」

並んで歩き出す。


距離は、さっきよりほんの少しだけ近い。


今日から会議が始まる。

重たい話も、難しい選択も、きっと待っている。

それでも。


この朝の空気と、

隣を歩く人の存在だけは、

ちゃんと心に残った。



恋って、たぶん

「答えが出る前」に始まるものなんだと思います。

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