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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第61話 その問いの重さ

ロビーで待っていると、二人が並んで戻ってきた。

「お待たせ 待たせちゃったかな」

ツカサがそう言ってから、ふと流花を見る。

「あれ、お風呂入った? 着替えてるし、なんかいい匂いする」

「え……?」

少し照れて、流花は視線を泳がせる。


「変じゃないかな? ちょっと可愛すぎない? この服。沙羅が作ってくれたんだけど……」

ツカサは即答だった。

「大丈夫。すごく可愛いよ」

「なぁ、ナギ?」


「……うん」

ナギは短く答えたきり、視線を逸らす。


「可愛い」

一瞬遅れて付け足すように言われて、流花の頬が熱くなる。


「……ありがとう」


ツカサがニヤリと笑う。

「はいはい、じゃあ行こうか」

「会場、もう揃ってるはず」

旅館の奥、大広間に入ると、落ち着いた空気が広がっていた。


年配の人が多く、どこか“場慣れ”した雰囲気がある。

ナギは一人ずつ丁寧に頭を下げながら、流花を紹介していった。


「こちら、流花さんです」

「先月、風受けの街に流れてきました」


「はじめまして よろしくお願いします」

少し緊張していると、穏やかな声がかかる。


「あなたが、そうですか」

「私は風巡りの倉庫番、ゲンです」

続いて、風綴り、風守りの倉庫番たちも名乗ってくれる。


そして——

「おや」

「君が、ヒロのところに来た流花さんだね」

顔を上げると、柔らかな目をした男性が立っていた。

「私は創太  ヒロの父だ」

「はじめまして 流花です」

「お二人にとてもよくしていただいています お話ししたかったので、会えて嬉しいです」


「そうかそうか」 創太は嬉しそうに笑ってから言った。

「じゃあ、隣においで」

自然に流花を隣へ促し、反対側にはナギが座る。


挨拶が一巡すると、会食が始まった。

「今日は顔合わせみたいなもんだ」

「堅苦しくしなくていい」

ナギがそう言って、場を和ませる。


「っていうか 会議も、そんなに格式ばったもんじゃないし」


杯が配られ、乾杯の声が上がる。

「流花さん、いける口かな?」

「少しだけ……」

そう言って杯を合わせた。


運ばれてきた料理は、一人ずつの膳。

刺身、天ぷら、茶碗蒸し、お浸し。

どれも丁寧で、出汁もちゃんとしてて

“板前の仕事”を感じる味だった。


「ここの人たち、みんな優しいだろ」

創太が、静かに話しかけてくる。

「はい」

「ここではね みんな名字を持たない」

流花は一瞬、箸を止める。


「最初は、私も不思議だったんだよ でも、“みんな家族だから要らない”って言われてな」

少し遠くを見るような目になる。


「……ああ、そういうことか」

流花がずっと感じていた違和感が、ここでほどけた。


「その代わり、街の名前で呼ぶ」

「だから君は——」

「風受けの、流花ちゃんだ」


「……はい」


「流花ちゃんは、どこの出身だい?」

「九州の、宮崎県です」


「やはり九州か 私は長崎だ」

創太は少し声を落とす。

「ここはな 多分、熊本の阿蘇の近くだ」

「外の人に、そう聞いた」

(九州から、出てなかったんだ)

それだけで、胸の奥が少し落ち着く。


「突然、こうなって驚いただろう」

「……はい」

「私も、ここに来たときは若かった 訳もわからず、途方に暮れたよ」

杯を置いて、続ける。


「だがな 慣れるしかなかった」

「会議で少しずつ事情がわかってきて、私は元々、アイスクリーム工場に勤めていたから 食品のことで、役に立てると言われて研究所に入ったんだよ」


「あ、ラーメン食べました!」

「すごく美味しかったです」


創太は声を出して笑った。

「あれはな、大変だった」

「最初は鶏で試したんだよ だが、豚骨にはならん」

「今は、外から定期的にもらっている 向こうにしたら、ほんのわずかな量だからな」


流花は、意を決して聞いた。

「……外の人って、どんな人なんですか?」

創太の目が、少しだけ鋭くなる。

「それは、明日だ」


「会えば、嫌でもわかる 自分が、どれほど小さくなったか」

ナギが、わずかに身じろぎした。


「創太さん……」

創太はナギに視線を向け、それから流花に戻す。


「流花ちゃん 覚悟は、出来てるかい」

その声は、優しさよりも現実に近かった。

「かくご ですか?」


「そうだ、覚悟だ。ここにいると、皆が同じ大きさだ だから、錯覚する だが 元の大きさの人間を前にすると 自分が“どれだけ変わったか”を突きつけられる」

一拍、置いて。

「私は、それで随分と落ち込んだもんだ」 「……自分は、もう人間じゃないんじゃないかと思ったほどにな」


ナギが、思わず口を開く。

「でも、創太さんは——」

「そうだ」 創太は、穏やかに頷いた。

「それでも、ここで生きている」

「人として、だ」

そして、静かに問いかける。


「流花ちゃん 帰りたいか」

流花は、少しだけ考えて答えた。


「……今は、まだわからないです。 ここが、楽しくなってきているので」


創太は、ゆっくりと息をついた。

「そうか」

「だがな 帰る選択は、早い方がいい」

「人との繋がりが深くなるほど この街にいればいるほど 帰れなくなる」


その言葉が、重く胸に残る。


杯の中で、酒が小さく揺れた。

——私は、どうしたいのだろう。


その問いだけが、静かに残っていた。


会食は和やかでも、

静かに重たい話が出てきました。

「帰る」という選択と、ここで生きるということ。

流花はまだ、答えを出せません。

それでいい時間だと思っています。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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