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第6話 「朝ごはんと、新しい出会い」

ナギは通りの向こうから、少し大きめに手を振った。


「いた」

振り向くと、動きやすそうな服のまま立っている。



短くまとめた髪は、整えたというより、朝の支度を終えたところ、という感じだった。


「朝から姿見えないからさ」

「朝ごはん、誘おうと思って」


「早く目が覚めちゃって」

「せっかくだから、町を散策してみてた」


「ああ、なるほど」

それだけで納得したみたいに頷く。


「まだなら、ちょうどいい」

そう言って、通り沿いの屋台へ向かった。


大きな鍋から湯気が立ちのぼり、

木箱には丸いパンがいくつも積まれている。


器に注がれたスープは澄んでいて、

手に持つと、じんわり温かい。


「朝はこれくらいが楽なんだ」

ナギはパンをちぎって、スープに浸す。


流花も真似する。

「……ちゃんと、体が起きる味」


「だろ」



長机の端に、先客がいた。

作業着姿の女の子が、

空になった器の横で紙を広げている。


巻かれた図面を押さえながら、

炭筆で何かを書き足しているところだった。


ナギが気づいて声をかける。

「朝早いね、モクレン」


女の子は顔を上げた。

「あ、ナギ」


後ろで一つに結んだ髪が、軽く揺れる。

「これから現場」

「先に見ときたいとこがあって」

ナギは流花を指した。


「この子、流花。

 昨日、この町に来たばっか」


モクレンは流花を見る。

服装と立ち方を、

一瞬だけ確かめるみたいに。


「うちはモクレン。よろしく」


「流花です。よろしく」


短い挨拶だけ交わす。


「建築組合で設計、やってる」

モクレンはそれだけ言った。


この町では、

建物は個人の都合だけで建てるものじゃない。


水の流れ。

風の抜け。

道との距離。


それに加えて、

町の奥にある、あの大きな建造物。


あれと調和するかどうかも含めて、

一度、組合で見てから決める。


だから町は、

無理に広がらず、

どこか落ち着いて見える。


流花は、図面に目を落とした。


「……家、建てるのって」

「思ってたより、考えること多そうだね」


「まあ……ね」

モクレンは少し間を置いた。


「勢いで建てると、あとで困る」

「材料もいるし」

「人も」


「お金も」

流花は肩をすくめる。

「正直、今は全然ない」


「うん。最初は、だいたいそう」

そこで、ナギが思い出したみたいに言った。


「そういえばさ」

流花を見る。


「流花って、料理できたりする?」


「……うん」

少し考えてから、頷く。


「ずっと、それでやってた」

「じゃあ、話早いな」

ナギは言う。


「この町、料理出すとこ多い」

「宿屋もあるし」

「小料理屋もある」

モクレンも顔を上げた。


「住み込みなら、紹介できるよ」

「え」

「知り合い、多いから」


言い方はあっさりしているけれど、

それが冗談じゃないのは分かる。


「二階が空いてる小料理屋とか」

「厨房手伝って、そのまま住んでる人もいる」


ナギが頷く。

「流れ者、多い町だから」


流花は、朝の通りを見る。


仕込みの音。

湯屋の煙。

少しずつ開いていく店の戸。


「……まずは、働く場所かな」

「それでいい」

ナギは即答した。


「お金たまるまではさ」

「集会所、使ってていいよ」


「……ありがとう」

モクレンも言う。


「働きながら、町見よ」

「建てるのは、そのあとでいい」


考えることは、まだ多い。

でも、

ちゃんと進めそうな道が、目の前にある。



朝のスープは、

もうすっかり飲み終わっていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

少しずつ、町の仕組みや人のつながりが見えてきました。

全部を一気に決めなくても、動きながら考えていける場所なんだと思います。

次は、仕事を探しに行く話になります。

また読んでいただけたら嬉しいです。

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