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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第59話 街の人達

「……その本、気になるかい?」

声をかけられて、流花は顔を上げた。


「はい。今日、電車に乗って来たばかりなので。どうやって作ったのか、すごく気になってしまって」

カウンターの向こうで、本を読んでいた店員のおばあさんが、ゆっくりと顔を上げる。


「そうかい。私もね、その本は読んだよ」

にこりと笑って、懐かしむように続けた。

「うちの先祖はね、あの線路を作る仕事をしてたんだ。とても大変だったって、代々伝わってる」

その言葉には、誇らしさが滲んでいた。

「今もね、息子が電車の整備の仕事をしてるんだよ」


流花は思わず、胸の奥があたたかくなるのを感じた。

――この街は、誰かの仕事の続きでできているんだ。

電車の本と、気になった物語の本を一冊。


流花はそれを抱えて、古本屋を後にした。


広場に出ると、制服を着た子どもたちが走り回っている。

少し昔風のセーラー服。

赤いリボンが揺れるたび、どこか懐かしい気持ちになる。


乳母車を押した母親たちが、木陰で話をしていた。

初夏の公園は、日差しはやわらかく、

木の下に入ると、ひんやりと涼しい。


公園を横目に、もう少し奥へ。


ここからは住宅街らしい。

庭の広い家が並び、集合住宅もいくつか見える。

生活の音が、静かに重なっている。


流花は一度、くるりと向きを変え、旅館の方へ戻る。

――次は、違う道を歩いてみよう。


細い路地に入ると、居酒屋やスナックが並んでいた。

まだ夕方も早く、人影はまばらだ。


「……この道は、ちょっと早かったかな」


そう呟いて、今度は入場門の方へ向かう。


こちらは、雰囲気がまた違う。

新聞社、出版社、銀行、不動産屋。

整然と並ぶ建物は、まるで小さなオフィス街だ。


――本当に、ちゃんとしてる。


行き当たりばったりじゃない。

ちゃんと考えられて、積み重ねられてきた街。


歩き疲れた足を感じて、流花は旅館へ戻ることにした。


まだ知らない道は、たくさんある。

でも今日は、ここまで。


風読みの街を歩いていると、

建物よりも先に、人の顔が見えてくる気がします。

電車を作った人。整備を続ける人。

遊ぶ子どもたちや、見守る大人たち。

この街は、誰かの仕事や暮らしの積み重ねでできている。そんな当たり前のことが、少しずつ見えてきました。

次は、いよいよ会議前夜。

また一段、風街の奥へ進んでいきます。

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