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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第58話 古本屋

「流花ちゃん」

ツカサが少しだけ立ち止まって言った。


「俺とナギは、これから明日からの会議の打ち合わせがあるんだ。

一人になっちゃうけど、大丈夫?」


「はい!」

流花はすぐに頷いた。

「旅館も大きいですし、迷子にはならないと思います」


「じゃあ、七時に会食だから、ロビーで会おう」

そう言って、二人は並んで歩き出す。

軽く手を振る背中が、人混みに溶けていった。


――さて。

一人になると、街の音が少し近く感じられる。


どこに行こうかな。

モクレンたちが話していた店を、少し見てみるのもいいかも。

そんな気持ちで商店街を歩いていると、ふと目に留まった。


古い木の看板。

小さな窓。

奥が少し暗くて、でも落ち着いた空気の店。


――古本屋。

「……本、見てみようかな」

引き戸を開けると、少し古い紙の匂いがふわりと広がった。


カウンターの奥には、鼻眼鏡をかけた、優しそうな店員さんがいる。

分厚い本を一冊、静かに読んでいた。


「あれ」

顔を上げて、じっと流花を見ている。

「初めて見る顔だね」


「あ、はい。はじめて、風読みに来たので」


「そうかい。ここは常連が多いからね」

「ゆっくり見ていっていいよ」

そう言って、また本に視線を戻した。


……思っていたより、ずっと本が多い。

でも、どれも分厚い。


「……あ」

流花は、ひとつ気づく。

紙の厚さは変えられない。

でも、本のサイズが小さいから、本の厚さが厚く見えるんだ。


「なるほど……」


棚を眺めていると、見覚えのある題名もちらほらある。

外の世界で読んだことのある本。


――この世界のサイズに、作り直してるんだ。

その事実に、少し胸が熱くなる。


特に多いのは、物づくりの本だった。


自分たちでどう作ったか。

どうリメイクしたか。

家具、道具、建物の工夫。


その中で、一冊の本に目が止まる。

『風街列車の歴史』 

「……気になる」

そっと手に取る。

ページをめくると、そこにはこう書かれていた。


――元は、遊具として使われていたキッズトレイン。

――運転できるように改良し、短かった線路を街全体に通す計画が始まった。

――線路には、ジェットコースターの鉄筋を再利用。

――動力はどうするのか、バッテリーの改良について

――駅を建てる際の試行錯誤。

――雨で失敗した日々。

そして、最後に。

完成まで、二十年。


「……二十年」

流花は、静かに息をついた。

あるものをリメイクして、

この街のサイズに作り直す。

そうやって、少しずつ、少しずつ、

この街は形になってきたんだ。

材料は、確かにたくさんあった。

遊具も、建物も、鉄も、木も。

でも、時間と工夫と、続ける意志がなければ、

ここまでにはならない。


ページを閉じる。

――どうして、この街が小さくなったのか。

――はじめは、どうだったのか。

そこには、やっぱり書かれていなかった。


「……秘密、なんだろうな」

謎は残ったまま。


けれど、

“どうやって”ここまで来たのか。

その答えは、少しだけ見えた気がした。

流花は、本を胸に抱えて、もう一度、棚を見渡した。

この街は、ちゃんと、積み重ねてきた世界なんだ。

風読みの街は、賑やかで、きれいで、少し不思議で。

でもその奥には、ちゃんと「時間」が積み重なっていることが、この回で少し見えてきました。

小さな世界だから簡単、ではなく、

小さな世界だからこそ、長い時間と工夫が必要だったこと。

流花が感じた「わからないままの部分」も、

きっとこれから、少しずつ形になっていきます。

次はまた、人と話し、街を歩きながら。

風街の続きを、ゆっくり進んでいきます。

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