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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第57話 小さな文明

ラーメンの余韻に、まだ身体が包まれていた。


満たされたお腹のまま、公園のベンチに腰を下ろす。

風が抜けて、少しだけ汗が引いていく。


「はい」

気づくと、ツカサが紙コップを差し出していた。

中身は、淡い黄色の炭酸。

「レモンスカッシュ。冷えてるよ」

「ありがとうございます」

一口飲むと、しゅわっとした酸味が口に広がる。


「どう? 美味しかったでしょ」

「はい……びっくりしました」

流花は思わず笑ってしまう。


「本当に、博多ラーメンでした」

「博多?」

「九州の、福岡って県の名物で……私、大好きな味なんです」


そう言うと、ツカサは少し得意そうに笑った。

「それを聞いたら、じぃちゃん喜ぶ」

「通います、絶対!(笑)」

ナギが横でくすっと笑う。


「じいちゃんがね」

「食べたすぎて、相当頑張ったらしいよ」

「麺類なら、ちゃんぽんもあるし、うどんも、パスタもある」



「たぶんさ」

ナギは、少し遠くを見るように言う。

「はじめの人たちは、食べたいものが山ほどあって」

「それを全部、小さい世界で再現しようとしてきたんだと思う」

「僕たちは小さい」

「でも、大きいときの感覚を持ったまま来た人たちは、本当に大変だったはずだよ」


流花は、はっとする。

――ということは。

「はじめの人たちって……」

「大きいときの感覚を、ちゃんと覚えてたってこと?」

そんなこと、あるんだろうか。

また、頭の中に「?」が増えていく。


「ほら」

ナギが、くすっと笑う。

「また一人で考えてる」

「最近わかってきたよ」

「流花ちゃん、考えてるとき、空を見る」

「え、そう?」

「うん」

言われて、自分でも気づかないうちに視線を上げていたことに驚く。


「そう?」

「うん」

ナギがそう言った瞬間。

「……」

明らかに、耳が赤くなった。

ツカサはそれを見逃さない。


「へぇ〜?」

にやっと笑って、ナギの方を覗き込む。

「そんなとこまで見てるんだ」

「ナギ、観察力すごいねぇ」


「ち、違……っ」

ナギは慌てて目を逸らす。

「そ、そういう意味じゃ……」


「はいはい」

ツカサは楽しそうに肩をすくめる。

「無自覚が一番たち悪いやつだ」

「なっ……!」


そのやり取りを聞いていた流花は、遅れて気づいた。

――え、私、そんなふうに見られてたの?

頬が、じわっと熱くなる。

「……あの」

「ナギ、よく見てるね……」

ぽつりと言った声は、少し小さかった。


ナギは完全に固まる。

「っ……!」

顔が、今度ははっきり赤い。

「ほらほら」

ツカサが楽しそうに笑う。

「二人とも赤いぞ、これ」

「いいなぁ、若いなぁ」


「ツカサ!」

「冗談冗談(笑)」


ツカサは立ち上がって、話題を切り替える。

「さて」

「ちょっと歩こうか」

三人で商店街に向かって歩き出す。


歩き出してすぐ、流花は目を見開いた。

本屋、金物屋、食器屋。

食べ物の屋台が並び、服やバッグ、アクセサリー、靴屋まである。


「……すごい」

「本当に、なんでもある」

「こんなに発展してるなんて」

「困ること、ほとんどないじゃない」


そのとき、視界に入った建物に、流花は足を止めた。

「……病院?」

「そう」

ツカサが頷く。

「ここが一番大きな病院」

「各街にも、ちゃんとあるよ」


「……すごい」

言葉が、自然と重なる。

「すごい、すごい……」


これはもう、ただの“住処”じゃない。

ちゃんと、人が生きるための街だ。


流花の胸に、驚きと、感動が一気に押し寄せた。

――小さくても。

――ここは、確かに文明だった。

ラーメン一杯で見えてくる、

この世界の「ちゃんとした感じ」。

食べ物があること。病院があること。

誰かが工夫して、続けてきた暮らしがあること。

そして、

何気ない一言で赤くなったり、からかわれたりする距離感も。

風読みの街は、にぎやかだけど、どこかあたたかい場所です。

次は、もう少しだけ街の奥へ。

読んでくださって、ありがとうございました。

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