55話 風読みの街、昼前
振り向いた先にあったのは、入場門だった。
それは、流花の記憶にある「遊園地の入り口」そのままの形をしていた。
少しお城みたいで、どこか可愛らしい二階建ての建物。
装飾は控えめだけれど、手入れが行き届いていて、ただの廃墟ではないことがすぐにわかる。
「あそこが、会議の場所だよ」
ナギがそう言った。
「二階が使われてる。昔は管理棟だったらしい」
なるほど、と流花は思う。
あそこなら“外の人”が出入りするのも、確かに不自然じゃない。
ただひとつ、気になることがあった。
――どうやって、二階に上がるんだろう。
自分たちのサイズを考えると、普通の階段ではないはずだ。
けれど、その答えを聞く前に、ナギは軽く話を切り替えた。
「そのへんは、明日わかるよ」
にこりと笑う。
「今日は移動で疲れたでしょ。まずは宿に行こう」
「うん……そうだね」
流花はもう一度だけ、入場門を振り返った。
昼前のやわらかな光の中でも、どこか影を含んだその建物は、
これから聞くことになる話の重さを、静かに予告しているように見えた。
「じゃあ、とりあえず荷物置こうか」
ツカサが言って、先に中へ入っていく。
ナギも続こうとして、ふと足を止めたツカサが振り向いた。
「……部屋、別々でよかったんだよね?」
「ばっ……」
ナギが一瞬言葉に詰まる。
「当たり前だろ」
「顔、真っ赤だけど?」
ツカサが楽しそうに笑う。
「うるさい」
そのやり取りを少し後ろで見ながら、流花は思わず小さく笑った。
案内された部屋は、落ち着いた和室だった。
障子の向こうには手入れの行き届いた庭が広がっていて、
小さな池と低木が、静かな時間をつくっている。
部屋には、ちゃんとした内風呂までついていた。
「……すてき」
思わず声が漏れる。
「ここにしばらく居られるなんて、ちょっと贅沢だろ?」
ナギが言う。
流花は頷いた。
この世界に来てから、初めての“旅先”だ。
荷物を簡単に整理してから、三人でロビーに向かうと、
もう外はすっかり動き出していた。
「まだ午前中だけどさ」
ツカサが言う。
「せっかくだし、街を少し案内しようか。歩いたら腹も減るだろ?」
宿を出ると、風読みの街は想像以上ににぎやかだった。
遊園地の名残を感じさせる建物が並び、
色とりどりの看板や、整った石畳が続いている。
「……きれい」
流花は、きょろきょろと視線を動かしながら歩く。
どこを見ても、手を入れ続けてきた街だということが伝わってくる。
「お昼、何食べたい?」
ツカサが気軽に聞いてくる。
「流花ちゃん、甘いもの好きだよね」
ナギが横から言った。
「いえ、お二人の食べたいもので大丈夫です」
少し考えてから、ツカサが言う。
「じゃあ、軽めでいこうか。
夕飯は和食になるから
昼は、ラーメンとかどう?」
「……ラーメン?」
思わず聞き返す。
風受けの街にはなかった料理。
その言葉だけで、胸が少し弾んだ。
「決まりだな」
ツカサが歩き出す。
まだ午前中。
けれど、知らない街で、知らない味に出会うには、ちょうどいい時間だった。
風読みの街に到着しました。
移動はあったけれど、まだ昼前。
少し肩の力を抜いて、街の空気に触れる回です。
次は、街歩きとお昼ごはん。
会議の前の、ほんのひと息をお楽しみください。




