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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第3章《風読みの街で》

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第53話 メリーゴーランド

遠くから、音楽が聞こえてきた。

最初は風の音に紛れて、何の旋律かわからなかった。

けれど、電車が進むにつれて、それははっきりしてくる。


ゆっくりで、どこか懐かしい音。

昔、何度も耳にしたことのある——あの音。


「あれは……」

流花が思わず声を上げる。

「メリーゴーランドだよ」

ナギがそう言った瞬間、視界がひらけた。


円形の大きな建造物が、緩やかに回っている。

屋根の縁に残る装飾は色あせているのに、中心だけが不思議と明るい。


「……動いてる?」


「うん。あれだけはね」

ナギは、少しだけ誇らしそうだった。


「ずっと整備し続けてるんだ」

「一日に一時間だけ、午前中に動かす」

「あとは、お祭りとか、イベントのときはずっと動いているんだよ」

電車が近づくにつれて、メリーゴーランドはどんどん大きくなる。


今の流花のサイズから見ると、それはもう

“遊具”ではない。

建物であり、風景であり、街の一部だった。


——これを、維持している。


そう思った瞬間、胸の奥がじん、と熱くなる。

遊園地としての役割は終わっている。

それでも、壊さず、捨てず、動かし続けている。


「……すごいね」

言葉にすると、少し震えた。


「最後の“遊園地”の形だからね」

ナギは、そう付け加えた。


音楽は規則正しく流れ、

馬たちは、昔と同じように上下している。

誰も乗っていないのに、ただ、回り続けている。

それが、切なくて、でもやさしかった。


「ここが——」

ナギが指差す。

「風綴りの街だよ」


メリーゴーランドの下。

その影に、建物がいくつも並んでいる。


本屋、工房、楽器屋、劇場のような建物。

どれも小さいのに、丁寧で、美しい。

飾るための街ではなく、暮らすための文化が詰まっている。


「行ってみたいな……」

流花がぽつりと呟くと、

ナギは少し考えるような間を置いてから言った。

「今度はさ」

「仕事じゃないときに、遊びに来よう」


それは、とても自然な言葉だった。

約束、というほど重くはないのに、

確かに“先”を思わせる言い方。


流花は、小さく頷く。

電車は再び走り出す。

メリーゴーランドが、少しずつ遠ざかっていく。

音楽も、だんだんと小さくなって、

やがて風の音に溶けていった。


「……残してるんだね」

流花が言う。

「うん」

「忘れないために、かな」


その言葉が、胸に残った。


電車は次の区画へ向かって進む。

視線の先には、より大きな建物の影が見え始めていた。


「さあ」

ナギが前を向いて言う。

「次はいよいよ、風読みだよ」


中央の街。

会議の街。


そして、この世界の“答え”に一番近い場所。

流花は、胸の奥で小さく息を吸った。


不安と期待が、同時に混ざり合っていく。

電車は、ゆっくりとその街へ向かって走り続けていた。


メリーゴーランドは、

遊園地が遊園地だった頃の「最後の形」みたいな存在です。

動かす理由が効率でも利益でもなく、

覚えているため、残しているというのが

この世界らしいなと思いながら書きました。

次はいよいよ、物語の中心——

風読みの街に入っていきます。

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