第52話 電車の行き先
「そろそろ、次の街が見えてくるよ」
ナギの声に、流花は身を乗り出した。
草地が途切れ、視界が一気に開ける。
その先に現れたのは、広いコンクリートのスペースだった。
「あ……」
思わず声が漏れる。
これは――ゴーカートの乗り場だ。
コースの形も、縁を囲む低い壁も、見覚えがある。
遊園地だと気づいた途端、これまで点だった景色が、一気に線でつながっていく。
「やっぱり……」
納得と同時に、胸の奥が少しざわつく。
ただ、時間は確実に流れている。
コース脇の柱は錆び、ペンキは剥げ落ち、
残されたアトラクションは、はっきりと“廃墟”の顔をしていた。
電車は、そのゴーカートコースの中へと分け入っていく。
金属を打つ音。
油と鉄の混じった、工場の匂い。
「ああ、ここは」
ナギが言う。
「風守りの街。建築の街だよ」
作業着姿の人たちが、数人降りていく。
代わりに、道具を抱えた人が乗り込んできた。
再び、電車が動き出す。
しばらく走ってから、ナギがぽつりと口を開いた。
「そう。ここはね」
「閉じられた遊園地なんだ」
流花は黙って聞いている。
「遊園地の中にあった遊具や施設を元にして、五つの街が作られた」
「それを、この電車がつないでる」
少し間を置いて、ナギが横を見る。
「……驚いた?」
流花は、小さく笑った。
「うん。でも、なんか……腑に落ちた」
それから、ふと浮かんだ疑問を、そのまま口にする。
「じゃあ、ここの人たちって」
「みんな、遊園地の人だったの?」
ナギは、少しだけ考えるような顔をしてから答えた。
「街の成り立ちについてはね」
「会議で、ちゃんと教えてもらえると思う」
「それまでは――内緒」
少しだけ、からかうように笑う。
「じゃあさ」
流花は話題を変える。
「この電車は、どうやって走ってるの?」
「これ?」
ナギは足元を軽く踏みしめた。
「始まりの人たちが、長い時間をかけてレールを引いたらしい」
「今はバッテリーで動いてるよ」
「電気は?」
「風力とか、水車とか」
「水道も、下水道も」
「全部、一から作ったんだって」
その言葉が、胸に残る。
――始まりの人たち。
どこかで、聞いた言葉だ。
結局、答えはまた先送り。
“会議でわかる”という場所に、すべてが集まっている。
電車は、ゆるやかにカーブを描く。
その先に、色あせた屋根と、回転する影が見えた。
「あれ……」
遠くに、メリーゴーランドが見えてくる。
ゆっくりと、次の街へ。
電車は、止まらずに進んでいった。
ここで、世界の輪郭が少しだけ見えてきました。
遊園地、街、電車――
今までバラバラに見えていたものが、ようやく一本の線になります。
でも、肝心な「はじまり」の話は、まだ先。
答えはすぐそこにあるようで、ちゃんと“会議”まで取ってあります。
次は、いよいよ次の街へ。
もう少しだけ、この電車に揺られてください。




