第51話 車窓の景色
駅で待っていると、ほどなくして電車がやって来た。
赤い車体。
屋根のついた小さな客車が、三両、連なっている。
思わず立ち止まって見てしまう。
小さくて、かわいい。
でも――
(……これ、見たことある)
はっきり思い出せないのに、胸の奥がざわっとする。
板張りの客車に並んで乗り込むと、足元で軽く振動が伝わった。
ガタゴト、ガタゴト。
ゆっくりと、電車が動き出す。
スピードは早くない。
歩くよりは速いけれど、急ぐ気配はまるでなくて、景色を見せるために走っているみたいだ。
しばらくすると、風受けの街の建物が少しずつ遠ざかっていく。
代わりに現れたのは、背の高い草が生い茂る一帯だった。
「この辺はね」
ナギが、窓の外を指さす。
「隣の街に続く街道以外は、だいたいこんな感じなんだ」
確かに、人の手があまり入っていない。
草は自由に伸びて、風に揺れている。
まるで、森の中を走っているみたいだ。
やがて、視界がふっと開けた。
遠くまで見渡せる場所。
その向こうに、奇妙なものが見えた。
空に向かって、何本も――
鉄筋の柱のようなものが、斜めに走っている。
(……え)
息をのむ。
「あれ、もしかして……」
声に出す前に、頭が追いついた。
ジェットコースターの――
レール。
さらに目を凝らすと、別の方向には、円を描く大きな影が見える。
遠くてはっきりしないけれど、あれはきっと――
観覧車。
胸の奥で、何かが一気につながった。
「……やっぱり」
小さく、呟く。
「ここ、遊園地なんだ」
ナギは何も言わず、ただ窓の外を見ている。
今、乗っているこの電車。
ゆっくり走る、小さな客車。
(ミニトレインだ)
遊園地にあった、子ども向けの電車。
屋上や園内をぐるっと回る、あの乗り物。
遊園地のお土産やさん。
カラフルな布や、小さな雑貨。
街のはしに立っていた、用途のわからない大きな柱。
すべてが、ひとつの形に収まっていく。
――廃墟になった、遊園地。
その中に、街ができて。
人が暮らして。
時間が、積み重なってきた。
ガタゴト、ガタゴト。
電車は何も知らない顔で、ゆっくりと走り続けている。
流花は、窓の外から目を離せないまま、
胸の奥で静かに、確信していた。
ここは、ただの不思議な世界じゃない。
“誰かが楽しむために作った場所”の、その後の姿なのだと。
走る電車の窓から見えた景色は、
懐かしくて、少し胸がざわつくものだった。
この世界は、突然生まれた場所じゃない。
誰かがいて、時間が流れて、今も続いている場所。
流花はまだ、全部を理解したわけじゃない。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。
――ここは、遊園地だった。
電車は止まらない。
次の街へ、物語は続いていく。




