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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第2章《小さな世界の仮住まい》

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第44話「秘密を知る人達」

少しだけ間が空いた。

流花は、カステラの包み紙を見つめたまま、指先をぎゅっと握る。


言葉にするか、迷っていた。

でも――

「……ヒロさん」

声をかけると、ヒロは顔を上げる。


「お父さんに、会えますか?」

思いきって、そう聞いた。

ヒロは一瞬だけ驚いたような顔をして、それから小さく笑った。


「親父か」

少し椅子に深く座り直してから、話し始める。


「俺は、この街の生まれじゃないんだよ」

流花は、思わず目を瞬かせた。

「俺は風巡りの街の出身でさ キヨは風綴りの街」

キヨがコーヒーを注ぎながら、軽く頷く。

「二人で店を出すって決めたときに じゃあ、どこでやろうかって話して ここがいいなって、来たのよ」

ヒロは続ける。

「親父はな 風巡りの街で、研究所の所長をしてる」

「まだまだ現役でさ もう歳なんだから引退しろって言っても、全然聞かねぇ」

ぶっきらぼうな言い方だけど、どこか誇らしそうだった。

「たまに、顔出しには来るんだよ 会議までに来てくれたら、いいんだけどな」

キヨが、くすっと笑う。

「そのうち来るわよ」

「そうそう、うちの実家があるところも、いいとこなのよい つか行きましょうね、流花ちゃん」

風巡りの研究所。

風巡りの街。


この街で、行ってみたいところが増えていく。

気づけば、胸の奥がふっとあたたかくなっていた。

――ああ。

私、もうこの街の住人みたいだ。


そう思えて、少し嬉しくなる。


ヒロが、ふいに真面目な声になる。

「……なぁ、流花ちゃん」

「帰りたいとは、思わないのかい?」

問いかけは、静かだった。

でも、まっすぐだった。


流花は少し考えてから、正直に答える。

「……まだ、わからないです」

「残してきた家族や友達のことも」

「仕事のことも」

「考え出すと、どうしたらいいんだろうって思います」

一度、息を吸ってから続けた。

「でも 今は……ここで暮らしたいって思ってます」

キヨが、やさしく笑う。


「家族には、話したいわよね」

「でも、ゆっくり考えればいいと思うの」

そう言ってから、流花を見る。

「私はね 娘ができたみたいで、すごく嬉しいのよ」

ヒロをちらっと見て、

「うちには、ぶっきらぼうな息子しかいないから」

と、冗談めかして言う。


流花は、思わず聞き返した。

「……息子さん、ですか?」


「あら、言ってなかったかしら」  キヨは楽しそうに笑う。

「ツカサっていうのよ 今は風読みの街で働いてるの」

「会議に行ったら、会ってきてもいいわね」 「手紙、出しとくわ」


ナギが、その名前に反応して口を開いた。

「ツカサは、頭がよかったからなぁ」

「同級生なんだよ」

「昔から、よく遊んでた」

すかさずキヨが突っ込む。

「よく二人で“いたずら”してた、の間違いでしょ?」

ヒロが小さく笑い、ナギは肩をすくめた。

「……否定はしない」


キヨは、ふと思い出したように続ける。

「今、流花ちゃんが使ってる部屋」 「あれ、元々ツカサの部屋だったの」

「今は空いてるから、ちょうどよかったわ 急に妹ができたら、きっと喜ぶと思う ずっと、兄妹が欲しいって言ってたから」

ナギが、少し照れたように付け足す。


「ツカサはね」

「会議の補佐の仕事をしてるんだ」

「エリート、ってやつだよ」

最後は冗談めかして笑う。

「だから 会議に行けば、きっと会えると思う」

知らない名前だったはずなのに、

その輪郭が、急に近づいた気がした。


ツカサ。

風読みの街で働く人。

ナギの同級生。

キヨとヒロの息子。

そして――

この街と、外の世界をつなぐ側にいる人。

会議は、もう「遠い話」じゃない


秘密を知っている人たち。

でも、それ以上に――

ここで、ちゃんと生きている人たち。

その輪の中に、少しずつ入れてもらっている。

そんな気がしていた。

少しずつ、この街の「秘密を知っている人たち」の輪郭が見えてきました。

知らなかった名前が増えて、

流花の世界も、ゆっくり広がっていきます。

次は、会議に向けて動き出す時間。

風読みの街、そしてまだ会ったことのない人たちへ——

物語は、もう一歩奥へ進みます。

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