第41話 甘いもの
流花の頭のなかはぐるぐるしていた。
「……なんか、甘いもの食べたい」
家を出てすぐ、流花がぽつりと言った。
ナギは少し驚いた顔をしてから、ふっと笑う。
「いいね。じゃあ、カフェに行こうか」
二人で向かったのは、あの大きな木の下のカフェテリア。
ナギは、店のすみの、人の気配が少ない席を選んだ。
お昼も兼ねて、パンケーキを頼む。
ふわっとした生地に、甘い香り。
流花はフォークを手に持ったまま、何から話せばいいのかわからずにいた。
沈黙を破ったのは、ナギだった。
「実はね」
「この街にも、流花ちゃんと同じように、突然やってきた人がいるんだ」
「……え?」
流花が顔を上げる。
「ヒロさんのお父さんだよ」
その名前に、胸の中で何かが繋がった気がした。
「ああ……」
キヨとヒロが、必要以上に詮索してこなかった理由。
距離を保ちながら、でも、あたたかく迎えてくれた理由。
「秘密を知っている人は、何人かいる」
「モクレンが、あの店を紹介したとき、僕もちょっと驚いたんだ」
ナギはパンケーキを切りながら、続ける。
「だからね」
「あの二人には、ちゃんと話して大丈夫だよ」
流花は、ゆっくりと頷いた。
「ヒロさんのお父さんとも、話せるといいね」
「会議にも行ったことがあるから、いろいろ聞けると思う」
その言葉を聞いた途端、流花の気持ちは、すっと決まった。
――早く帰りたい。
――二人に会って、ちゃんと話したい。
「……食べたら、帰ろうかな」
そう言うと、ナギは少し笑って言った。
「僕も一緒に行くよ」
「来月の会議、1週間あるから、お休みももらわなきゃだし」
「旅行の準備もあるでしょ」
「それも、お願いしなきゃ」
「風読みの街って、どんなところなの?」
「ここよりずっと都会」
「人も多いし、お店もたくさんあるよ」
「服はここで作ってるから、この街の方が安くていいものが多いけどね」
「倉庫番の一族って、どんな人たち?」
ナギは少し考えてから答えた。
「ちょっと固い人もいる」
「でも、理解はあるし、新しいものも好きだ」
「何より、みんなこの街のことを本気で考えてる」
そして、少しだけ声を和らげる。
「会議は、僕も一緒だし」
「観光旅行だと思って、気楽に行こう」
――二人で、旅行。
その言葉が胸に落ちて、流花は小さく息を吸った。
甘いパンケーキの味が、少しだけ違って感じられた
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
甘いものを食べながら、ぽろっと明かされた話。
まさかヒロさんのお父さんまで——と、流花と一緒に少し驚いています。
知らないと思っていたこの街にも、
実は「同じ立場だった人」がちゃんといて、
静かに、でも確かに繋がっていたんだなと感じる回になりました。
会議のこと、風読みの街のこと、
そしてナギとの小さな旅の予感も。
次から、また少し世界が広がりそうです。
よかったら、もう少しだけお付き合いください。




