第40話 決断
「ひとつ、お願いがある」
その言葉のあと、じいちゃんはすぐには続けなかった。
湯のみを手に取り、一口だけ口をつけてから、静かに置く。
「倉庫番会議が、来月ある」
ナギが小さく頷く。
「年に四回」
「各街の倉庫番が集まる、大事な会議だ」
じいちゃんは、流花をまっすぐに見た。
「その場にね」
「流花ちゃんにも、出てほしい」
胸の奥が、きゅっと縮まる。
「会議には、外の人が必ず関わる」
「それも、昔からの決まりだ」
言葉を選ぶように、じいちゃんは続けた。
「これまでにもね」
「流花ちゃんと同じように、この世界に来てしまった人はいた」
流花は、思わず顔を上げる。
「多くはない」
「けれど、確かにいた」
「そして、その人たちは皆」
「何らかの役割を持って、この世界で生きてきた」
ナギが、静かに補足する。
「職人になった人もいる」
「研究に関わった人もいる」
じいちゃんは頷いた。
「中にはね」
「元の世界へ戻っていった人もいる」
流花の胸が、わずかにざわついた。
「それらはすべて」
「倉庫番の一族が把握してきた」
「記録として」
「責任として」
部屋の空気が、少し重くなる。
「流花ちゃんは」
「今、その“流れ”の中にいる」
じいちゃんの声は、穏やかだが、逃げ道はなかった。
「ただ、この世界に来てしまった人というのは 秘密を知った“住民”だ」
「だから」
「倉庫番の皆に、知ってもらう必要がある」
「そして」
「必ず認めてもらわなければならない」
ナギが、流花を見る。
「それは、守るためでもある」
「流花ちゃん自身を」
じいちゃんは、少しだけ声を和らげた。
「無理にとは、言わないよ 怖いと思うなら、それも正直な気持ちだ」
「会議の場は 誰かを裁くところじゃない ただ、事実を共有する場所だ」
流花は、膝の上で指を重ねたまま、しばらく黙っていた。
外の世界の人がいること。
ここに来た人たちが、役割を持って生きてきたこと。
そして、戻っていった人がいるということ。
知らなかったことばかりだった。
けれど、不思議と——拒否したい気持ちは湧かなかった。
逃げるよりも、
ちゃんと知りたい、という気持ちのほうが強かった。
流花は、ゆっくりと顔を上げる。
「……わかりました」
声は小さかったが、はっきりしていた。
「倉庫番会議に、連れていってください」
ナギが、ほっとしたように息を吐く。
じいちゃんは、静かに頷いた。
「ありがとう」
「それでいい」
湯のみの湯気が、ゆっくりと立ちのぼる。
流花はまだ、
自分が何者になるのかを知らない。
けれど——
この世界の一員として、向き合う場所には立った。
それだけは、確かだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、流花が「この世界にいる理由」と向き合う回でした。
知ることは、少し怖い。
でも、知らないままでいるより、前に進むための一歩でもあります。
倉庫番会議、そして流花のこれから。
ゆっくりですが、確実に物語は動いていきます。
また次のお話で、お会いできたら嬉しいです。




