第4話 「自分の火」
布団の中は、思っていたより落ち着いた。
敷き物の上に重ねた布が、床の冷たさをきちんと遮ってくれている。
それでも、目を閉じきれずにいると、視線は自然と外に向いた。
集会所の壁の向こう。
開いた部分から、夜の森が見える。
月が、出ていた。
高い位置にあるはずなのに、妙に大きく感じる。
前なら、見上げて終わりだった。
今は、目を逸らすまでに、少し時間がかかる。
流花は布団の中で、ゆっくり息を吸った。
月明かりに照らされた木の幹が、集会所の外に影を落としている。
太い。
根元が、見えない。
前なら、何人かで腕を回せば足りるか、そんなふうに考えていた大きさだ。
今は、一人で抱える想像すら浮かばない。
そこで、はっきり分かった。
自分が、小さい。
布団の中で、そっと手を持ち上げる。
この手で、前は包丁を握っていた。
重さも、長さも、体の感覚に馴染んでいたはずなのに、今は、その記憶の方が遠い。
世界は何も変わっていない。
森も、空も、そこにあるものは同じだ。
変わったのは、距離と、重さと、自分の体だけ。
なんで、この大きさなんだろ。
答えは出ない。
理由も、意味も、今は分からない。
ただ、この世界は、この大きさでできている。
家、作らなきゃな。
そう思ったあとで、また木を見る。
前と同じ形の家は、たぶん作れない。
同じ手順も、通じない。
仕事も、きっと同じだ。
集会所の火が、背後で静かに音を立てている。
小さくて、扱いやすい火。
前なら、腰を落として見る火だ。
今は、目線の高さにある。
この火は、この大きさ用だ。
月や木には届かないけれど、火には、ちゃんと手が届く。
自分の体に、合っている。
自分の火、か。
家も、仕事も、その先だ。
まずは、この大きさで立てる場所を作る。
布団の中で、流花はゆっくり息を吐いた。
明日になったら、外れを歩いてみよう。
この体で歩ける距離。
この目線で見える場所。
火を使っても、邪魔にならないところを。
月は、相変わらず大きい。
それでも、前とは違う距離で見上げている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、流花がこの世界での大きさや距離感を、少しずつ実感していく回でした。
家のことも、仕事のことも、
まだ答えは出ていません。
でも、考え始めた時点で一歩目かなと思っています。
次は、実際に外を歩いてみる話になる予定です。
よろしければ、続きをお付き合いいただけたら嬉しいです。




