第39話 倉庫番の真実
やわらかな革張りのソファーに腰を下ろす。
木の床はきれいに磨かれていて、古い家なのに、どこか整っている。
ローテーブルの上には、湯のみが三つ並んでいた。
じいちゃんは流花の向かいに座り、ゆっくりと背を預ける。
「さて」
低く落ち着いた声。
その一言で、部屋の空気がすっと静まった。
「流花ちゃんの話を、聞いてもいいかな」
正面から向けられる視線はやさしい。
けれど、誤魔化しはきかない、そんな目だった。
流花は背筋を伸ばす。
どこから話せばいいのか少し迷っていると、じいちゃんが続けた。
「全部を、話さなくてもいい」
「この街に来たことから少しずつ」
その言い方に、肩の力が少し抜けた。
流花は、ここに来た日のことを話した。
目に入るものの大きさ。
身体の感覚。
怖さより先に、生活が始まってしまったこと。
ナギは黙って聞いている。
じいちゃんは相槌も打たず、ただ視線を向けたまま、最後まで耳を傾けていた。
話が終わると、じいちゃんは一度、ゆっくりと息をつく。
「……やっぱり、そうか」
小さくそう呟いてから、流花を見る。
「この町にはね」
「“倉庫番”が各街にいる」
ナギが、わずかに姿勢を正す。
「倉庫番は、物を管理する役目でもあるけど」
「本当は、この世界の“裏側”を知っている一族だ」
流花は、言葉を挟まずに聞いた。
「この町の外には、人がいる。たぶん流花ちゃんが暮らしていた世界だと思う。もちろんここは日本だし外の世界も日本だ」
「大きなままの人間だよ」
はっきりとした言い方だった。
遠回しでも、比喩でもない。
「倉庫番会議にはね」
「その“外の人”が関わる」
流花の胸が、きゅっと縮まる。
「直接会うこともあるし」
「そうでないこともある」
「けれど、それは昔から続いている決まりだ」
じいちゃんは、そこで少し間を置いた。
「この世界は、閉じているようで」
「完全に閉じているわけじゃない」
流花の頭に、ふと浮かんだのは、
店で飲んだコーヒーの香りだった。
——あ、そうか。
ほんの一瞬、そんな気づきがよぎる。
「だからこそ」
「秘密は守られてきた」
「この町を外の世界から守るために」
じいちゃんは、ゆっくりと流花を見る。
「流花ちゃん」
「君は、特別な立場にいる」
その声は、静かで、断定的だった。
「“小さくなった大きい人”として」
「外の感覚を知っている存在だ」
「そして、そういう人はこれまでにもいた。
多くはないがね」
ナギが、黙って頷く。
「だから」
じいちゃんは、声をほんの少しだけ和らげた。
「ひとつ、お願いがある」
その一言で、
これからの話が、ただの説明では終わらないことがはっきりと伝わった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回は、この世界の前提が、少しだけひっくり返る回でした。
「小さくなった人たちだけの世界」だと思っていた場所に、大きい人は、外にいる。その事実が、静かに明らかになります。
安心なのか、不安なのか。
戻れる希望なのか、それとも新しい重荷なのか。
流花自身も、まだその答えを持っていません




