第37話 ワンピース
この前作ってもらったワンピース。
今日はこれを着ていこう
布を広げると、
青とも緑ともつかない、やわらかな色が目に入る。
いつも着ている青より、少しだけグリーンが混じった色。
仕事着というより、ちゃんとした「お出かけ着」という感じがする。
袖を通すと、布は軽く、
動くたびに、すっと体についてきた。
階段を下りると、キヨがもう起きていた。
「あら」
流花を見るなり、キヨは目を細める。
「それ、いい色ね」
「いつものより、そっちのほうが
今日は合ってるわよ」
「ほんと?」
「お出掛けってかんじ」
流花が少し照れていると、
キヨはふと思い出したように言った。
「ナギと約束してるんでしょ」
「うん、朝から」
キヨは引き出しを開けて、小さく畳んだ紙を差し出す。
「これ おこづかい」
「え?」
「お給料日は月末なんだけど」
「少しは持ってたほうがいいわ」
そう言ってから、もうひとつ、机の上に置く。
ベージュの小さなポシエット。
「それと、これ 昔使ってたんだけどね」
キヨは肩をすくめる。
「私には、ちょっと若すぎるのよ
よかったら、流花に使って欲しいなって」
「……いいの?」
「いいのいいの」
流花はポシエットを受け取り、
中にお金をそっとしまった。
ちょうどそのとき、
外から足音が聞こえてくる。
「おはよう」
ナギが店の前に立っていた。
「おはよう、ナギ」
「じゃあ、行ってきます」
キヨは軽く手を振る。
「いってらっしゃい 楽しんでおいで」
外に出ると、朝の空気がひんやりしている。
ワンピースの裾が、風に揺れた。
「今日は、散歩でもしよう」 ナギが言う。
「少し歩くよ」
「うん」
歩き出して、しばらくしてから、
ナギは流花のほうを見て言った。
「そのワンピース、似合ってるね」
「ありがとう 沙羅に作ってもらったの」
少し間を置いてから、
ナギは続けた。
「……この前はさ」
「会議の話、突然あんな風に言っちゃって、ごめんね」
「ううん」
「じいちゃんに怒られた」
「順序立てて話をしろって」
流花は思わず笑う。
「突然小さくなって」
「突然、この街に来て」
「流花も、不安だよね」
「……うん」
否定できなかった。
ナギは前を向いたまま、
とりとめのない話を続ける。
街のこと。
仕事のこと。
倉庫番のこと。
そして、少し間を置いてから言った。
「だからさ」
「今日は、じいちゃんに会ってもらいたいと思ってるんだけど どうかな?」
流花は足を止める。
「え?」
「僕が話すよりも きっと、詳しく教えてくれると思う」
突然の提案。
突然の、お宅訪問。
「……大丈夫かな」
「うん」
「きっと」
ナギはそう言って、
いつものように、やさしく笑った。
歩き出した道の先に、
まだ知らない答えがある気がして。
流花は、ワンピースの裾を軽く押さえながら、
もう一度、前を向いた。
ワンピース一枚で、少しだけ景色が変わる朝でした。
そして、流花にとって大きな一歩になりそうな約束も。
次は、ナギのおじいさん。
この世界の話が、もう少し具体的になっていきます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




