第35話 街の名前
一通り新聞に目を通してから、
流花は束をきちんと揃えて、部屋に戻った。
ベッドの上にに腰を下ろし、
頭の中で、もう一度ゆっくり整理する。
街の名前。
風受けの街。
(衣をつくる街)
風巡りの街。
(食を生み出す街)
風守りの街。
(建築や鍛冶、暮らしを支える街)
風綴りの街。
(文化や芸術、物語が集まる街)
そして
風読みの街。
中央にある、すべてをつなぐ街。
「……きれいに分かれてるんだ」
思わず、独り言がこぼれる。
それぞれの街が役割を持って、
ばらばらではなく、ちゃんと連携している。
ちゃんと考えて作られている街。
衣があって、
食があって、
住む場所があって、
文化が育って、
それをまとめる中心がある。
「さすが新聞……」
ちゃんと読み込むと、
ただの出来事だけじゃなくて、
この世界の形そのものが見えてくる。
(ということは……)
流花は、ふと考える。
この風街という世界には、
相当な数の人が住んでいるはずだ。
一つの町どころじゃない。
ひとつの市、
もしかしたら、それ以上。
「……結構、大きいんだ」
歴史も、当然ある。
ナギが言っていた
「何世代も前から」という言葉が、
頭の中で重なる。
でも。
今日見てきた倉庫を思い出す。
道具。
家具。
紙の質感。
色あせたプラスチック。
どれも、流花の感覚では
昭和の終わり頃のものが多い。
(五十年くらい前……?)
胸の奥が、少しざわつく。
「……私、未来に来ちゃったのかな」
そんなはずはない、と分かっているのに、
考えずにはいられなかった。
時間。
街。
人の数。
世代。
答えは、ここにはない。
(ナギだ)
はっきりしていることは、それだけだった。
ナギは知っている。
この世界のことを。
外の世界のことを。
そして――流花のことも。
会議に行けば、
きっと分かることがたくさんある。
分からなくても、
考えるための材料は、手に入る。
「……ちゃんと話そう」
逃げずに。
曖昧なままにしないで。
窓を開けると、
夜の風が、静かに部屋に入り込んできた。
涼しくて、やさしくて、
背中を押されるような風。
「これからのこと……」
流花は、深く息を吸う。
この街で、
この大きさで、
この世界で。
もとの場所に戻ることが出きるのか。
真剣に考えなきゃいけない。
そう思えたこと自体が、
もう一歩、前に進んだ証だった。
街の名前がそろって、
この世界の形が少しだけ見えてきました。
分かったことが増えるほど、
分からないこともはっきりしてくる気がします。
次は、ナギと。
そしてこの街の向こう側にある話へ進んでいく予定です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




