第34話 風街新聞
女三人の賑やかな夕食を終えてモクレンが帰って行った。
店の中はいつもの静けさに戻る。
流花が台を拭いていると、
キヨが奥の棚をがさがさと探している気配がする。
「ちょっと待ってね」
そう言ってから、
両手で抱えるように紙の束を持ってきた。
「はい、新聞」
受け取ると、思ったより重い。
「これ、前の分も一緒」
「ヒロがさ、どうせならまとめて渡したほうがいいだろうって」
ヒロは今日はもう出かけている。
それでも、流花のことを思って残してくれたのが分かる。
「……ありがとうございます」
それだけしか言えなかったけれど、
胸の奥に、じんわりとしたものが広がる。
キヨは気にした様子もなく、
「読んだら、そこ置いといて」と軽く言って、
また自分の作業に戻っていった。
流花は店の端の席に腰を下ろし、
新聞を広げる。
一番上に大きく書かれた題字。
――風街新聞
(風街……)
ここは、そう呼ばれている場所なんだ。
今さらだけど、初めてちゃんと意識する。
紙をめくる音が、静かな店内に小さく響く。
目に入ってきた見出し。
〈風綴りの街で図書館がオープン〉
「風綴りの街……」
知らない街の名前。
でも、図書館という言葉に、少しだけ心が引っかかる。
本が集まる場所。
ということは本がたくさんある!
前の世界でも読書家だった流花は
それだけで、嬉しくなった。
ページをめくる。
次の見出し。
〈風読みの街で来月、定例会議開催〉
「……風読み」
ナギが言っていた、中央の街。
ふと、手が止まる。
風街。
風綴りの街。
風読みの街。
(全部……風、だ)
頭の中で、そっと並べてみる。
風を受ける街。
風を綴る街。
風を読む街。
「……きれい」
思わず、声が漏れた。
意味が全部分かるわけじゃない。
でも、どこか詩みたいで、
この世界らしい名前の付け方だと思う。
もう一度、記事に目を落とす。
会議の内容は簡単にしか書かれていない。
詳しいことは、何も分からない。
けれど――
自然と、ナギの顔が浮かんだ。
「次の会議で、流花のこと話していいかな」
あのときの、少し慎重な声。
新聞を見つめたまま、考える。
どうしてここに来たのか。
どうして小さくなったのか。
元いた世界のこと。
答えは、まだない。
でも。
(ちゃんと話そう)
ひとりで考え続けなくてもいい。
そう思えたのは、たぶん初めてだった。
新聞をたたみ、束の上に戻す。
店の外では、
夜の風が、静かに街を通り抜けていた。
風街新聞、ようやく登場しました。
街の名前や、少しだけ見えてきた世界の仕組み。
流花自身も、ここが「ただの居場所」ではないと感じ始めています。
次は、ナギとの会話や、新聞の向こう側にある話へ。
この世界の輪郭が、ほんの少しずつ見えていく予定です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。




