第33話 夕方の町を歩く
夕方の町は、昼とは少し違うリズムで動いていた。
仕事を終えた人たちは足早に通りを抜けていく。
一方で、これから飲みに向かう人たちは、ゆっくりと歩いている。
笑い声が混じり、靴音が重なり、町の空気がほどけていく。
通り沿いの店からは、鍋の音や油の匂い。
屋台の前には、立ち止まる影が増えていく。
街灯が、ひとつ、またひとつと灯り始め、町がやわらかく照らされていった。
流花は、夕方の風を感じながら歩く。
青い服の裾が、風に揺れる。
「おー、モクレン」
向こうから声がかかる。
仕事帰りのおじさんたちだった。
「仕事お疲れさま」
「今日はほどほどにしときなよ」
「仕事帰りの一杯だな」
「飲みすぎないでね、明日も仕事よ」
そんなやりとりを交わして、また歩き出す。
こういう会話が、町のあちこちに転がっている。
やがて、見慣れた店の前に着いた。
今日は休みのはずなのに、中から明かりと匂いが漏れている。
「ただいまー」
声をかけると、キヨが顔を出した。
「おかえり」
「ちょうどご飯できてるよ」
「簡単なものだけどモクレンも食べてく?」
「もちろん」
「ありがたくいただきます」
流花がふと聞く。
「ヒロさんは?」
「休みだからね 友達と飲みに出掛けちゃったのよ」
三人分の皿が並ぶ。
あたたかい湯気が立ちのぼり、店の中が落ち着いた空気になる。
倉庫の話。
服屋の話。
今日歩いた町の話。
大きな出来事じゃない。
でも、それを誰かと話せる時間が、なぜか嬉しかった。
窓の外では、夕方の光が静かに夜へ変わっていく。
その中で、店の中だけが、ゆっくりと温度を保っていた。
今回は、夕方の町と、仕事終わりの時間を書きました。
大きな出来事はないけれど、こういう時間が積み重なっていくのが、この街らしいなと思っています。
少しずつ、流花の一日が当たり前になってきました。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
また続きは、明日




