第32話 似合う色
「いらっしゃい、待ってたよー」
沙羅は今日も、オレンジ色の服で出迎えてくれた。
店の中は布の匂いと、午後の光で少しあたたかい。
「いくつか作ってみたの」
そう言って、カウンターの上に服を並べていく。
「なんとなくね、流花ちゃんには青が似合うなぁって思って」
きれいな青色のシャツ。
やわらかいパステルブルーのブラウス。
黒いパンツが二着。
それから、ブルーグリーンのワンピース。
「寒色ばっかりになっちゃったけど、どうかな」 「この辺なら仕事着にもなると思うし」
並んだ服を見て、流花は少しだけ戸惑った。
前の自分なら、きっと選ばなかった色だ。
黒や白、無難なものばかりを着ていた。
「……こんな、きれいな色、似合うかな」
ぽつりと言うと、モクレンが横から言った。
「似合うと思う」
「青い服着ると、顔が明るく見えるし」
「何より 流花っぽい」
沙羅も、うんうんと頷く。
「でしょ?」 「好きな服着るとさ、気持ちも変わるんだよ」
少し間をおいて、沙羅は笑った。
「私もね、昔は無難なのばっかり着てた」
「仕事始めた頃なんて、目立たない色しか選ばなかったし」
「でも、好きなの着るようになってからの方が、ずっと楽しくなった」
流花は、ゆっくり息を吐いた。
「……ありがとう」
それから沙羅は、思い出したように言う。
「あ、最初に着てた服ね」 「ちゃんと直しといたよ。仕事着にでも使って」
「ほんとに、ありがとう」
「お代はキヨさんにもらってるから」
「気にしないで」
そう言われて、
「ちょっと待ってて 渡すものがあったんだ」
流花は台車の方へ戻った。
倉庫で見つけた包みを取り出す。
「今日、倉庫で見つけたの」
「よかったら……」
沙羅が包みを開く。
「わ、きれい」
「ガラスのビーズだね。こんなにたくさん」
「ちょっと待ってて」
奥へ消え、すぐに戻ってくる。
手には、濃い赤のビーズに細いリボンを通したもの。
「これ、チョーカーにしたらかわいいと思う」
「……いいの?」
「いいよ」 「持ってきてくれたお礼」
赤いビーズは、夕方の空みたいな色をしていた。
窓の外を見ると、ちょうど町が夕陽に染まりはじめている。
「他のも、なにか作ってみるね」
「できたら、また教える」
流花は胸元のチョーカーに、そっと指を添えた。
夕陽の赤と、ガラスの光。
今日も、この街はきれいだ。
――こうやって、作っていくんだ。
服も、飾りも、気持ちも。
少しずつ、自分の色が、この場所に増えていく。
今回は服と色のお話でした。
「似合う」と言われることや、好きなものを選ぶことって、思っている以上に気持ちを前に進めてくれるんだなと書きながら感じました。
青い服と赤いビーズ。
流花の中に、少しずつこの街の色が増えていく回になっていたら嬉しいです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
次も、また少し日常が動きます




